16地面に倒れそうになった拓海は、何とか持ちこたえて振り返る。金髪と青髪の生徒が、凶悪そうな顔をしながら拓海に迫っていた。
「せっかく可愛い子とお友達になれると思ったのに」
「オレらの純情弄びやがって、ふざけんなし」
近づいて来るのは、拓海よりも大きな生徒だ。
拓海に向かって伸びてくる手を見て、お面の生徒達に襲われそうになった記憶が、嫌でも思い起こされる。
何とも言えない悪寒が走り、ぶるりと震えながら、ジリジリと後退った。
「水やり装置のスイッチが入ってないけどー?」
そんな時、のんびりとした声と共に、入口からまた新たな生徒が現れた。
「げっ」
「ヤバッ」
青髪が慌てた様子で拓海から離れた途端、ガックリと両膝を折った。そのまま前のめりになって四つん這いの態勢になる。
「ねーねー、何してたのさ。ちゃんと地面が乾いたら水やりしなきゃ駄目でしょ」
新たに現れた人物は、黒髪で一見普通の生徒に見えたが、青髪の背中を何度も足蹴にしながら、逃げ出そうとしていた金髪の胸ぐらを片手で掴んでいた。
急に目の前で始まった出来事を、拓海は驚いたまま見ていることしかできない。
「ご、ごめんなさい!」
「ごめんなさいで済むと思ってるわけ?」
「あっ、いたっ、痛いっす!!」
「気色悪い声出したからペナルティ」
「ひえぇっ、ごめんなさいぃ!」
青髪の背中を愉しげに踏み続けていたその生徒が、不意に顔を上げた。
すぐ近くにいた拓海と目が合った瞬間、両目が見開かれる。
「あっれまー……」
「そっ、そいつは生徒会の回し者です!」
「だから追い出そうと、ゲフッ」
「口を動かさないで手を動かしましょう。水やり、やって来い」
「はい!」
黒髪の生徒に思い切り踏まれた青髪は、涙目になりながら走り去った。一緒に逃げたそうにしていた金髪は、胸ぐらをしっかり捉まれていて一歩も動けていない。
見た目に反して、黒髪の生徒はずいぶんとバイオレンスだった。
「えっと、何か用なのかな?」
黒髪の生徒が拓海に向かって尋ねてくる。
ごく普通にクラスメイトに話し掛けているような感じだが、乱暴な行動がそれに伴っていないので逆に怖い。
拓海が固まっていると、黒髪の生徒は、拓海が落としてしまったファイルを拾うように金髪に促した。
手にした生徒会のファイルを一瞥すると、納得したように頷く。
「何だよこれー。しょうがないなぁ、宇佐見に会わせるよ」
一瞬『ウサギ』に聞こえてしまい、ウサギのお面が思い浮かぶ。拓海の心臓が竦んだが、すぐに宇佐見だと気が付いた。
「ええっ!? マジっすか!?」
「うるさい。なぁ、えーっとそこの君、ついておいで。仕事なんだろ」
ついておいでとあっさりと言われても戸惑ってしまう。
睨んでくる金髪も怖いし、バイオレンスな黒髪の生徒は、拓海に危害を与えるような気配はないが、正直怖い。
けれど、任された仕事はきちんとこなさくてはならない。
リストに載っているのだから、これまでだってきちんと届けも提出されていたはずだ。拓海では無理だったとなるのは避けたかった。
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