13「あれでは、いつか会長の足を引っ張ってしまうかもしれないですね」
「えっ、そうなの?」
森崎が漏らした台詞に、和葉が反応した。
不安そうに森崎を見つめる。
「ユウマ、大変なんじゃないのかな……」
中瀬が絡むことだし、和葉が気にするのも無理はないだろう。
だが倉林は、拓海がパソコンの扱いに慣れていないのも、仕方がないのかもしれないと思っていた。
食堂での一件があった後、倉林は拓海のことを調べていた。
結果分かったことは、母子家庭で遊ぶこともせずに、学校と家とスーパーを行き来する、何の面白味もない拓海の生活だけだった。
そんな中、幼なじみの木崎と同じ学園に入学するために、特待生の席を貰おうと努力していたに違いない。
健気だと思った。
ホロリとしてしまった倉林だったが、食堂での生意気な態度と、木崎が離れて和葉が淋しそうなのは、拓海が原因であることを思い出したのだ。
だが結局、拓海の綺麗な涙を見て、倉林がホロリとしてしまった通りの人物だったことがわかった。
木崎が大切にしているのも今なら分かる。
そんな拓海だから、きっと今までパソコンに触れる余裕もなかったのだろうと、倉林は考えていた。
特待生になるくらいなのだから、パソコンにだってすぐに慣れてしまうだろう。
「今日は初めてだったし、緊張してたのもあったんじゃないー?」
「……先程も思ったんですが、副会長は随分と彼の肩を持つんですね」
「そうなの?」
隣にいた和葉の大きな目が倉林を見上げる。何となく不安そうに見えて、安心させるためにニッコリ微笑んだ。
「気のせいだよぉ」
「気のせい? 誤魔化してるんですか? まさか、既に垂らしこまれましたか」
「ダメだよ!」
和葉が倉林の腕にしがみ付く。
「あの人、ボクに酷いこと行ったんだよ? ね、ユキナリも聞いたでしょ?」
三枝が無言で頷いた。
「たっくんが酷いこと言ったの? 誤解じゃないのかなぁ」
「トモヤは信じてくれないの?」
瞳を潤ませる和葉だが、倉林は拓海への誤解を解きたかった。
「たっくんはいい子だから……」
「酷いっ、ボクは傷ついたのに! 虐められたんだよ?」
「和葉……」
「もしかして、トモヤまであの人に騙されてるの?」
泣き出した和葉を、倉林を睨みながら三枝が抱き締める。
「トモヤ、酷いよ、酷い……! 出て行って!!」
大好きだった和葉に拒絶されて、倉林はショックを受けた。
周りのメンバーも和葉と同じように倉林を無言で拒む。
くらりと目眩を起こしそうになりながら、倉林は立ち上がって部屋から出た。
震える手でドアを閉めて溜め息をつく。
和葉に同調出来なかった。
和葉に嫌われてしまったけど、謝りに行く気にはなれない。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
ふと、和葉は自分自身のことばかりだったな、と倉林は思い返した。
なんだか、違う。
木崎のために涙を流した拓海は綺麗な存在だった。
食堂でのことも友人を守るためだったし、友人のためにたった一人であの会議室に乗り込んできた。
──今からでも、仲良くなれたら、拓海は倉林のために泣いてくれるだろうか。
自分のために涙を流す姿を思い浮かべて、倉林はふるりと体を震わせた。
木崎ほどの仲にならないと駄目なら、これからずっとそばにいればいいだろうか。
緩く微笑むと、倉林は廊下を歩き出した。
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