23不意に、伊吹に向いていた秀吾の視線が横に反れ、それから不機嫌な表情に変わる。
「今すぐどこかに行け」
突き放したような秀吾の態度は、伊吹にショックを与えた。
今の伊吹と秀吾は初対面なのだから、それも当然だと分かっているつもりだった。だが、予想以上にダメージを受けてしまっていた。
「いいから早く──」
と、秀吾が言い掛けた所で、誰かの大きな声が割り込んで来た。
「あーっ!! こんな所にいたのか、秀吾!!」
弾丸の様に駆け込んで来た黒い塊が、そのままの勢いで秀吾に飛び込んで来た。
突然の事に驚いていた伊吹だったが、黒い塊が人で、秀吾の体にしっかりとしがみ付いている事が分かると、再びショックが襲ってくる。
「どけよ」
「何でだよ。照れてるのか?」
秀吾が引き離そうとするが、黒い塊……よく見れば安東だった……は、しがみ付いて離れようとしない。
そんな様子を見て、普段は引っ込み思案な伊吹も、流石に黙ってはいられなかった。
「嫌がってるんだから離してあげて」
安東が振り返る。
もっさり頭と大きなメガネは健在だった。あと、ピンク色をした艶々の唇も。
「誰?」
どことなく険を帯びた声音で、安東が尋ねる。
「そんな奴関係ないから行こう、安東」
秀吾が、しがみ付く安東をそのままにしながら、立ち上がって東屋から出て行こうとする。
(し、秀吾君……)
確かに、秀吾からしてみれば、華京院伊吹との関係はないだろうが、以前は伊吹の手を取ってくれた秀吾が、伊吹を一人残して行こうとしている。
しかも、一緒にいる相手が、秀吾の事が好きだと言う安東だから、余計に気持ちがぐちゃぐちゃになってしまいそうだ。
「なんだ、ただの秀吾のファンかよ! 秀吾の邪魔しちゃダメなんだからな!」
(むかっ!!)
安東のセリフで、伊吹の悲しみも引っ込んだ。
「そ、そう言うあなただって、ただのファンでしょ!」
伊吹が言い返した途端、ぎょっとした表情で秀吾が振り返った。
「なに言ってるんだよ! そんなはずないだろ!! 秀吾には俺がいないとダメなんだからな!」
「そんなわけないでしょ」
「そうなんだよ! 次は秀吾を生徒会長にしてやって、俺が副会長になるんだ。それで、俺と秀吾は、こ、恋人になるんだからな!!」
「なんだって!?」
色々と物凄く聞き捨てならない。
安東は、安東を可愛がってくれてる元生徒会達の伝を使うのかもしれないが、それでいいはずがない。秀吾は、自分の力で充分に生徒会長になれるのだから。
それに、秀吾の恋人の座だって、易々と他の人に渡せるはずがない。
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