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伊吹が久しぶりに登校すると、なんと、いじめを無くそうキャンペーンが始まっていた。
「小学校みたいだよな」と、藤乃が小馬鹿にしたように笑っている。

伊吹は生徒会長から虐められて怪我をした事になっていた。
傷害事件ならずに虐めに変わったのは、安東を始めとする前期生徒会の圧力もあったのだと、二階堂が教えてくれた。
そして、華京院家に乗り込まれて戦慄した学校側が、慌て取り繕った結果が、この小学校のようなキャンペーンだったようだ。

生徒会長は謹慎処分を受け、役職は解任された。
生徒会から降ろされるのはとても不名誉な事で、学校側の対応に納得しかねていた志鶴も、そこに伊吹のお願いも加えられて、渋々ながらも学校へ送り出してくれたのだった。

そして、伊吹にとってはトラウマにもなりかねなかった今回の事件。生徒会長自らが手を出した事により、今期の生徒会は解散となり、新たに生徒会選挙が行われる事になったのだ。

「やったね、藤乃君! 怪我の功名? 災い転じて福となす? とにかく、千載一遇のチャンスだよね」
「ポジティブだね、伊吹」

伊吹の自室で、ソファーで藤乃と向かい合っていた。
相変わらず、秀吾はこの部屋にいない。

「だって、秀吾君が生徒会に入れるチャンスだから」
「まあ、嫌な思いもしたんだし、それくらいの事が無いとだよな。伊吹が元気になるならそれでいいし」
「藤乃君……」

確かに、生徒会選挙のニュースは、伊吹の襲われかかった恐怖心などのもろもろの事を吹っ飛ばしてしまっていた。

「でも、肝心の秀吾君が立候補するかが問題じゃないか? 推薦でもいいらしいけど」
「推薦だと、秀吾君が辞退しちゃうかもしれない。こうなったら、何がなんでも秀吾君を探し出す!」

伊吹は珍しく闘士に燃えていた。




まず手始めに、寮長に会ってあの時の事を聞いてみる事にした。
早速、風紀委員がこっそり張りついている。連れ回す事になって申し訳ないが、背に腹は変えられないのだ。

「本当にありがとうございました」
「いいえー。華京院さんからお礼をいただいたし、全くもって役得でした」
「はあ、それはどうも」
「ふふふ」

寮全体を管理する寮管とは別に、各寮には寮長がいる。寮長は生徒の代表で、主に三年がこの役につく。
伊吹の寮の寮長である西井は、変な人だった。見た目は穏やかな草食系だけれども。

「寮長の他には誰もいなかったんですか?」
「あー、もしかしたら、守護霊が一緒にいたかも。俺の守護霊は何か知ってる? アルパカなんだって」
「そ、そうなんですか」
「ところで、西井さんはどうして伊吹のピンチがわかったんですか?」
「ふふふふ。可愛い子と二人っきりになったら、何かが起こらないはずはないよね」

形の良い目が、ひたりと伊吹を捕える。藤乃が咄嗟に伊吹の腕を引いた。
ふふふ、と笑う西井は、伊吹の中で残念なイケメンに分類されたのだった。

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