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いかにも真面目で冷静沈着そうだった生徒会長が豹変してしまった。

興奮して赤く染まる目もとに荒い息。
掴まれた肩が痛くて伊吹が眉を寄せると、生徒会長がゴクリと喉を鳴らし、両目がカッと見開かれた。

「華京院君……!」
「ひえぇっ!!」

伊吹が身震いする程の恐怖を覚えたその時、思いっきり体重をかけられた。
軽くなった事が災いになったのか、伊吹の軟弱な体は呆気なくよろめく。
そのままひっくり返り、後頭部を強かに打ち付けた伊吹の目の前に火花が散った。

「ああ、麗しい。華京院君」

激しい痛みの中で、生徒会長の息が近づいてくるのが感じられた。

(やだよ、秀吾君……)

「伊吹!!」

ぐらりと意識が遠退きかけた時、伊吹が待ち望んでいた、大好きな声が聞こえた気がした。




◇◇◇




伊吹は病院のベッドにいた。
数ヶ月前にもお世話になっていた大病院の個室である。

「伊吹、食事は出来そう?」
「うん」

心配そうに藤乃が聞いてくるが、大きなたんこぶが出来ている他は至って健康な伊吹だった。

「あの、僕を助けてくれた人って、本当に寮長さんだけだった?」
「そうだよ」
「そう……」

確かに、意識を失う前に秀吾の声を聞いたのに、伊吹のピンチを救ったのは、異変に気付いた寮長だったらしい。
頭をぶつけたせいなのか、伊吹が求める余りだったのか、幻聴を聞いてしまったようだ。

「今、志鶴さんが学校に乗り込んでるから、狼藉者は処分されるはずだよ」

落ち込む伊吹を不安がっていると思ったのか、藤乃が慰める。

藤乃が言った通り、志鶴は学校に乗り込んでしまった。たんこぶしか出来ていない伊吹だが、数日安静にしなければならない怪我と、ケアが必要な心の傷が出来たとして。

大袈裟だと思ったけれど、伊吹が目覚めた時には既にここにいて、志鶴は学校へ向かってしまった後だった。
それに、心配と迷惑ばかりかけてしまっている立場としては逆らえない。

「心配かけてごめんね」
「そんなの気にすんなよ。ああそうだ、二階堂が俺達の護衛を強化するって」
「強化するの?」
「ほら、俺達美しいからさ。不埒な気を起こすような不届き者を排除しないとだろ」
「えーっ」

それでは自由に秀吾を探したり、秀吾を追い掛けたり、秀吾を見守ったりしづらくなってしまう。

「駄目だよ。また同じ目に遭いたくないだろうが」
「うー……」

確かに、アレは怖かった、とても。
伊吹は、両腕で身震いする自分自身を抱き締めた。

「あの狼藉者は、普段は性欲のせの字も関係ないような奴だったらしい。そんな奴が襲い掛かって来るくらいだから、用心に用心を重ねた方がいい」

それでも足りないかもしれないけどな、と言う藤乃に伊吹は小さく頷いた。

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