18「二階堂君、聞きたい事があるんですが、少しいいですか?」
「もちろん。何でも聞いてくれてかまわないよ」
「ありがとうございます。えっと、生徒会の事なんですけれど、……一ノ瀬君が今期の生徒会に入ってなかったのは、何かあったからなのか心配になって」
「ああ、彼が生徒会に入らなかった事は、僕も残念に思っているよ。彼の事は、直接本人に聞くべきだと思うが、中々会えないかもしれない」
「どうしてですか?」
「ある生徒がいたく彼にご執心でね。もしかしたら、そんな事もあって生徒会から遠ざかったのだろう。その生徒は、生徒会役員から大切にされているからね。今期は補佐をやっているはずだよ」
そんな凄い生徒から思われてるなんて、物凄く不安になる。
早く秀吾に会って、話がしたいと思う。
「結局、一ノ瀬は生徒会に入らなかった。すると今度は、本来なら一人部屋であるその生徒の部屋に、一ノ瀬を引き込もうとし始めたんだ。無理矢理ね」
「ええっ!?」
「何それ、同室にしようとしてるって事? 横暴じゃん……」
「一ノ瀬はそれを避けて、ほとんど姿を見せなくなってしまっているんだ」
「……秀吾君……」
伊吹がいなかった間に、秀吾はずいぶん大変な目にあっていたようだ。
秀吾の事が好きな人が、秀吾と同じ部屋で、秀吾と共に過ごす……。
そんなの絶対に許せない。伊吹としては断固阻止したい。
それに、自由に学校生活を送れなくなっている秀吾が、不憫でならなかった。
「その生徒って誰なんだ?」
「いずれ知る事となると思うが」
「そこまで話したんだから、言っちゃえば? どうせいつか知るんだったら、遅いか早いかの違いだろ」
藤乃の言い様に、二階堂は仕方なさそうに小さく微笑む。
「あの……、僕も知りたいです」
「安東君だよ」
「安東って、あの安東君? 転校生でしたよね」
「ああ、そうだよ」
「何だよ、伊吹が頼むと口が軽くなるな」
安東は、いつか屋上で秀吾にキスをしていた生徒だ。とても驚いたから、よく覚えている。
あの彼は、やっぱり秀吾の事が好きだったのだ。
「秀吾君はどこで過ごしているんだろう……」
「彼にも味方がいるから大丈夫だろう。確か、プシュケは華京院になったんだったな……」
そう言いながら、二階堂がパソコンを操作し始めた。
「一ノ瀬の同室は、本来なら君だったはずだ」
「そうなんですか!? だ、だから昨日から誰もいなかったんですね。部屋に荷物だけはあったんですけど……」
「理由は詳しくは言えないが、一ノ瀬の味方の誰かが、『華京院』ならば安東に対抗できると考えて、この組合せにしたのだろうと僕は見ている。だが一ノ瀬は、自分の同室者に迷惑をかけまいと考えて行動しているのだろうな」
「じゃあ、伊吹の部屋には帰って来ないって事か」
「……僕は嫌じゃないのに」
秀吾と過ごせるなら、虐められる事だって何だって我慢できる。
でも、秀吾はそれが耐えられないのだ。秀吾は他人にとても優しいから。
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