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伊吹は、藤乃と共に風紀室に案内されていた。
編入生と転入生である二人に、風紀委員の二階堂が、この学校の特殊性について説明するためだ。

初めての風紀室に、しかも二階堂つきで、伊吹は緊張して固まってしまっている。ほとんど二階堂と藤乃しかしゃべっていない。

「君たちは見た目が麗しいため、血迷う者が現れるかもしれない。我々風紀委員も警戒しておくつもりだ」

二階堂がまともだ。
一見冷たそうにも見える相貌が、真面目に話をする様子はキリリとして素敵だった。
現に、藤乃はさっそく二階堂を気に入ったようで、あれこれ積極的に質問している。

「君たち自身にも、常に気を付けていてもらいたい。中務君は自分を良く理解しているようだね」
「うん、まあね。その辺の躱し方なら任せなよ」

頷いた二階堂の視線が、今度は伊吹の方を向いた。
伊吹は、今まで学校の片隅でひっそりと傍観している側にいた。
先ほどの教室での出来事もそうだが、突然、スポットライトが当たる慣れない表舞台に立たされたような状態になっていて、戸惑うばかりである。

「君は、プシュケに愛されたのかい、アンゲロス」
「ぶ……げほっ!」

何も飲んでいないのに、伊吹はむせた。

(あ、あんげろ……って、前も似たような事言われた!!)

まさか、伊吹が片村だとバレたのだろうか。
どうしよう! と、むせながら藤乃を見ると、不思議そうな目でこちらを見ている。

「美しい君はどんな姿になっても、その美しさは変わらないよ」

(バ、バレてるー! なんで!?)

藤乃もすぐに察したのか、二階堂を見る表情が険しいものになった。

「な、なんで……」

なぜ、今の伊吹が片村伊吹だとわかったのか。不安になって二階堂を見上げた。

「隠していたのかい? それはきっと大丈夫だろう。今の君はプシュケの如き美しさで、その輝きに周りの目は眩んでしまうからね。私も他言するつもりはないよ」
「そ、そうですか……」

ちょっと言ってる意味がわからなかったが、確かに今まで二階堂以外にはバレていなかったので、大丈夫なのかもしれない。
ただ、二階堂の怖さは健在だった。

「あんた、前から伊吹の良さを知ってたのか。いいヤツなんだな!」

若干引き気味の伊吹に対して、藤乃は好印象を持ったようだ。

「あの」
「何かな? 君の質問は出来うる限り答えたいと思っているよ」

いちいちオーバーである。伊吹は口を閉じたくなるが、こんな感じでも二階堂は信用できるかもしれない。
秀吾の事を聞けるのは、彼しかいないと思った。

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