16淡路が言うには、秀吾には生徒会からの推薦まであったが、辞退してしまったとの事だった。
淡路にその理由を尋ねてみると、「どうして一ノ瀬の事が知りたいの?」と逆に問われた。浮かべていた微笑みが何だか恐かったのもあって、伊吹はそのまま口をつぐんでしまった。
そうなると、在学生に知り合いもいない伊吹は、秀吾から直に話を聞くしかない。
秀吾は伊吹とも藤乃とも違うクラスになってしまったので、後で秀吾のクラスに赴いてみる事にした。
◇◇◇
「それでは、また明日」
そう言って担任が教室を出たと同時に、伊吹のまわりに人が数人集まった来た。
早速秀吾のクラスに行くつもりだった伊吹は、新しいクラスメイト達に取り囲まれるような状態になってしまった。
みんな、好奇心に満ちた表情を隠しもせずに、伊吹をチラリチラリと見ているが、伊吹にしてみれば、今から尋問でもされるのではないかと戦々恐々としてしまう。
「みんな、彼は慎み深いんだから、いきなりそれでは嫌われるんじゃない?」
呆れたような淡路の声がしたが、この状況をどうにかするつもりはないようだ。
伊吹を早くクラスに馴染ませるつもりでいるのか、綺麗に微笑んだままでいる。
「華京院君とお友達になりたくて……」
「ダメかな」
(おっ、お友達……!!)
お友達になりたいなど、この学校で初めて言われた台詞だった。
だがしかし……、と伊吹は思いとどまる。彼らは伊吹ではなく、華京院と仲良くしたいと考えているのだ。
それに伊吹は今、それどころではない。伊吹の気持ちは秀吾に一直線に向かっているのだから。
けれど、期待に満ちた目で見つめられて、押しの弱い伊吹がそれを振りほどく事も邪険にする事も出来るはずもなく。
「今から一緒にお昼を食べませんか?」
「食堂に美味しいランチがあるよ」
「食堂? それよりカフェがいいんじゃない?」
いきなり右と左でバチバチッと火花が散った気がした。
左右で不穏な空気が発生している。今まで和やかだったような気がしていたのに。
この状況は、以前よく見かけた光景だった。顔やステータスがいい生徒の周りで、その生徒を取り合って、みんなが啀み合っていた。
それが今、伊吹自身が当事者となっている。
(うわー、これってどうすればいいの!?)
頭を抱えたくなる状況に、華京院の凄さを改めて知る。こんな形で実感したくはなかったけれど。
「華京院君はいるかな?」
その時救世主が現れた。
もしかしたら、この状況から逃れられるかもしれない。
だが、その救世主が二階堂だったとわかり、少し複雑な気分になる伊吹だった。
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