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「荷物、持ちましょうか?」
「えっ!?」

誰かに話しかけられた。
何の心積もりのなかった伊吹が、ビクッとしながら相手を見ると、一年の時に同じクラスだった人だった。しかも、からかわれた上に笑われた記憶がある。

「今日、入寮ですか? まだ少し距離があるし、荷物を運びますよ」

爽やかな笑顔で手が差し伸べられた。
片村伊吹の時には見たこともないような表情と態度である。

「おっ、サンキュー! 助かるよ」

藤乃がボストンバッグをあっさりと手渡してしまった。
何時でもどこでもかしずかれる事に慣れている藤乃は、涼しい顔で当然のように振る舞っている。

「ふ、藤乃……」
「さあ、君もどうぞ。運動部で体を鍛えてるんで、これくらい持てます」
「でも」

戸惑っていると、横からすっと伸びてきた大きな手に、荷物を取り上げられてしまった。

「じゃあ、こっちは俺が持つな」

増えた。
また同じクラスだった人だ。例の如く、伊吹をからかっていた相手だった。
二人とも運動部で顔もいいから、そこそこ人気があったような気がする。

荷物を持った元クラスメイトの二人は、さっさと歩きだしてしまった。
仕方なく、伊吹も後からついて行く。

「君達、会った事ないよね。二年生みたいだけど、転入生?」
「そうだよ」
「そうなんだ! 君達と知り合えて嬉しいよ。俺は淡路で、こつちは金嵩。名前、聞いてもいい?」
「俺は中務で、彼は華京院君」
「えっ、華京院……」

驚いたように元クラスメイト達に見られて、伊吹は居たたまれなくなって俯いた。

「綺麗なだけじゃなくて、奥ゆかしいんだね」

何をもってアナタはそれを言うのですか!? とは言えるはずもない伊吹は、今すぐ走って消え去りたかった。






「思ってたより大変な事になってるかも……」

やっと寮の自室に逃げ込めた伊吹は、そのままベッドに倒れこんでいた。
同室者が外出中で良かった。
藤乃とは部屋が別れてしまったのは、とても不安である。

それにしても、見た目が変わると、こうも周囲の反応が違うのか。
心底驚いた。

今の伊吹は華京院というネームバリューもあるし、からかわれたり、虐められる事はないだろうけれど、上げ膳据え膳のような対応には、正直戸惑ってしまう。
しかし、華京院なら当然のように受け止めなくてはならないのだろう。

「こんな荷物くらい、自分で持てるよー」

伊吹の声が、部屋に虚しく響いた。

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