《秀吾と伊吹・過去2》そしてその次の週も、伊吹はゴミ袋を持って、校舎裏を歩いていた。
今日もいい天気だ。
木々の間から、キラキラ眩しい日の光が降り注ぐのを見つめる、伊吹の微笑みは絶えない。
転んだ伊吹に差し伸べられたのは、温かい手だった。そして、優しい声で話しかけてくれた。
素敵な秀吾の笑顔を思い出しては、まあるい頬を染めなから、伊吹は夢心地で歩いて行く。
その結果、同じ場所で躓いた。
「いたい……」
今回も見事に転ぶ。
こう何度も転んでいたら、そのうちズボンが擦り切れてしまうかもしれない。そう考えながら立ち上がろうとしていると、足音が近付いてきた。
「大丈夫?」
「はっ! わわっ!?」
力強く引き起こされる。
前回同様、伊吹を助けてくれた相手は、秀吾だった。
目の前に秀吾がいる。それだけで、伊吹は目眩を起こしそうになる。
「また、だね」
「あっ、すみません!」
落としたゴミ袋まで拾ってくれた。これも前回と一緒。
何度も情けない姿を秀吾に見られてしまい、真っ赤になりながら伊吹は涙目になっていた。
「ゴミ出しは当番制だよね。君のクラスは違った?」
伊吹を見る秀吾は、相変わらず格好良い。
でも、何だかその笑顔が何時もの眩しい感じとはちょっと違う気がして、伊吹は戸惑った。
「えっと……」
「もしかして、押し付けられた?」
「みんな部活とか、予定があって忙しいみたいだから」
はあ、と秀吾が溜息をついた。
「体よく押し付けられてんじゃないか。何組だ?」
「僕が好きでやってる事だから……」
入部したい部活が狭き門だったために、あれこれ努力していたり、憧れの先輩を追い掛けるのに忙しいクラスメイトもいる。
伊吹が一番暇だから、ゴミ出しくらいどうって事はないと思っているのだ。
「いつもじゃないんです」
今回は、たまたま続いてしまっただけで、毎回と言うわけではなかったりする。
「でも、決められたルールを守るのは、幼稚園児でも分かっている事だ。君がやっているのは、単なる甘やかしじゃないのか?」
伊吹は、今度は真っ青になりながら涙目になっていた。
秀吾に呆れられた。秀吾が言っているのは正論で、クラスメイトの頼みを断れない伊吹が注意されるのは当然だ。
でも、物凄く悲しい。
伊吹は、父親の一件以来、人からの頼みごとは断れなくなってしまっていた。
しかし、そんなトラウマがあるのも、結局は伊吹自身の弱さのせいなのだけれど。
[ 15/33 ]← →
[mokuji]