《秀吾と伊吹・過去1》



──伊吹が秀吾と初めて会話したのは、一年前の事。



伊吹の学校には、提携している清掃業者が入っているが、基本的に自分達の教室は自分達で掃除を行う事になっている。
そして、伊吹は一週間分のクラスのゴミを集積場所へと運んでいた。途中で頼まれた、隣のクラスの分も中に含まれていたりする。

ちょっと遠いけど、伊吹はちっとも面倒だとは思わない。
外れの方にあるゴミの集積場所に向かう途中では、春の花々が伊吹の目を楽しませてくれるからだ。

(ふあーっ。あったかいし、やっぱり春っていいなぁ)

ふわんとした気分で、春を満喫する。
暖かい日差しが木漏れ日となってキラキラしている様は、この前伊吹が見つけた素敵な人みたいだった。
たまたま伊吹が見かけたその人は、背が高くて格好良くて、笑顔がとても優しそうだった。友人に囲まれて、穏やかに笑っていた。
きっと、春の日差しのように暖かい人なんだと思う。

そんなふうに素敵な人を思い出しているうちに、伊吹は暖かい気持ちになっていく。
しかし、その暖かさを満喫するあまり、足元が疎かになっていた。

「へぶっ!!」

爪先が何かに引っ掛かり、とても鈍い伊吹は見事に転んだ。

「い、いたい……」

ヨロヨロと体を起こそうとしていた所で、誰かが伊吹の手を引いてくれる。
少々ぽっちゃりぎみの伊吹をしっかりとした腕が支えていた。

「大丈夫か?」

(うわー、何だか……)

伊吹が転んだり、躓きそうになったら必ず笑われていたのに、この人は心配してくれて、それどころか力強く引っ張ってくれた。
嬉しくなって、お礼を言おうと思った伊吹は、相手を見上げて固まった。
何故ならば、さっきまでうっとりと思い出していた素敵な人、その本人が目の前にいたのだから。

「どこか痛む?」
「っ!? んだ、大丈夫です!」

テンパりすぎて可笑しな返事をしてしまった。

「はいこれ」
「わっ、ありがとうございます!」

ゴミ袋を手渡された。
頭に血が上ってしまい、伊吹がオロオロしている内に、素敵な人は落としてしまったゴミ袋を拾ってくれたようだ。

やっぱり、この人は素敵な人なんだ。
伊吹は実感する。
でも手渡されたゴミ袋は一つだった。伊吹は二袋持っていたはずだ。

「一つ持つよ」
「ふぉっ! 大丈夫です」
「遠慮するな。また転ぶぞ」

そう言って見せてくれた笑顔に、伊吹はますます頭に血が上っていくのを感じていた。

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