「忙しい君たちに、わざわざ来てもらう必要はなかったと思ったんだ」
「そっか、気にさせちゃったんだね。ハルトはやっぱり優しいよ」

和葉が嬉しそうに笑う。
遥都にしては珍しく、機嫌があまりよくないような物言いだったが、和葉達を気遣ってのことだったらしい。
ただ、大きな生徒の方は遥都の態度が気に入らないのか、眼光鋭く睨み付けている。

「会議が三十分繰り上がった。時間がない」
「わかりましたよ河峰先輩。拓海、仕事になっちゃった。ごめんね」
「うん、大丈夫だよ」

遥都が申し訳なさそうな表情で謝るのを拓海は首を振って制した。

「うわあ、だあれ? 新入生?」

遥都しか視界に入っていなかったような和葉が拓海に気付き、キラキラした瞳を向けてくる。
それを遮るように、大きな生徒が拓海達の間に入ってきた。目の前を大きな背中に塞がれる。

驚いた拓海に気付いたのか、遥都にさり気なく腕を引き寄せられた。

「遅れたら会長に怒られちゃうよ」
「あっそうだった、大変!」

遥都に言われて、和葉は慌てたように元来た道を戻り始める。何というか、和葉はとても自由な人のようだ。
拓海の目の前を壁のように塞いでいた背中も、和葉の後を追って行ってしまった。

「拓海、大丈夫?」
「うん。ありがとう」
「後で拓海の部屋に行ってもいい?」
「いいよ」
「よかった。常磐、後は頼んだよ」
「はい」

遥都は残っていた涼やかな方の生徒に声をかけると、拓海に別れを告げて校舎に向かった。
拓海と、常磐と呼ばれていた生徒の二人だけが残される。

「先輩は行かなくていいんですか?」
「はい。彼らは明日の入学式の打ち合わせに向かいました。生徒会と風紀のみですので、どちらにも所属していない私には関係ないのです」
「遥都を呼びに来た人達は生徒会なんですか?」
「いいえ。あの二人は風紀委員です。生徒会と風紀はその性質上関わることが多いので」
「そうなんですか……」

遥都と一緒にいられるのは羨ましいが、なかなか個性が強そうな人達で、例えメンバーになったとしても絶対に疲れるだろうと思った。

「ここからは私が寮までご案内いたします」
「はい。あっ、でも一人で大丈夫ですよ」
「木崎さんに頼まれていますし、学園についても話がありますので、私に案内させてください」
「そうなんですか。よろしくお願いします」

拓海がうなずくと、彼は再び微笑んだ。
制服をきっちりと着ていて、言葉遣いも丁寧な彼は、仕草からも育ちの良さがにじみ出ている。
切れ長の目許が綺麗な人だった。

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