放課後。
拓海は生徒会室のドアの前で、立ち止まっていた。

別世界のようなフロアにある豪華な扉の向こうは、絶対に異次元の空間が広がっているに違いない。見るからに重々しいドアを開けるのに、いささか勇気が必要だった。
拓海は、ここまでわざわざ送ってくれた水島を、さっさと帰してしまったことを少しばかり後悔していた。

「……何をやってるんですか?」
「!!」

突然背後から声をかけられて、拓海は肩を跳ねさせる。
振り返ると、会計の森崎が立っていた。

訝しげな表情をしながら、森崎が生徒会室のドアを開ける。そのまま拓海を見下ろすので、不思議に思いながら眼鏡をかけた端整な顔を見た。

「入らないのですか?」
「は、入ります……」

どうやら拓海のためにドアを開けてくれていたらしい。
森崎の意外な対応に戸惑いながら、拓海は足を踏み入れた。

室内に入って真っ先に目に入ったのは、悠真の姿だ。
拓海を見て僅かに口元が微笑んだのを見て、自分の体から力が抜けたのが分かる。
それから心配そうにこちらを見る遥都に気が付いたので、拓海は小さくうなずいてみせた。



生徒会役員は、会長の悠真と書記の遥都、それから副会長の倉林と会計の森崎は拓海も見知っていた。

「生徒会補佐の桧山明良です。宜しく」

爽やかに自己紹介した桧山は初対面だった。
さり気なく右手を差し出されて、条件反射で握手をする。
切れ長の一重は冷たそうな印象だったが、笑うと途端に人懐っこい印象になった。

改めて生徒会メンバーを見て、拓海は気後れしそうになる。それぞれタイプは違うけれど、みんな眩し過ぎると思う。

「会計監査は独立した機関ですので、あなたの場合、会議以外では顔を合わせることはないでしょう」

そんな森崎の説明に、拓海は助かったとばかりにうなずいた。
生徒会絡みなら、例に漏れず顔がいいに違いない。これ以上イケメンは増えないで欲しいというのが、拓海の本音だった。

簡単な自己紹介と生徒会の説明をした後、拓海は早速悠真の手伝いを始めた。
悠真の席は、いわゆるお誕生日席と呼ばれるような上座にあり、そのすぐ側が拓海の席だった。
向かいには倉林がいて、目が合うとヒラヒラと手を振っている。そんな倉林の隣が遥都の席で、拓海の隣には森崎がいた。

役員には、各々ノートパソコンがあったことにまず驚いた。拓海の机にも、もちろん同じものが鎮座している。
パソコンを見ている拓海に、悠真が声をかけてきた。

「扱いは大丈夫か?」
「はい、何とか……」
「何とかでは困ります」

隣から厳しい声が割って入る。

「生徒会や学園に関する重要なデータもあるので、中途半端な知識では困ります」
「まあ、拓海にまずやってもらうのは聖蘭に関するものだ。機密事項でもないから大丈夫だろう。追々慣れればいいさ」

すかさず助け船を出した悠真を森崎は冷ややな視線で射抜き、そのままその視線を拓海に向けた。

「早く慣れてください」
「はい」

これからこの調子で、拓海は隣から監視され続けるのかもしれない。
失敗したら、拓海だけではなく悠真の責任も問われるだろう。改めて、気を引き締めなければならないと思った。

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