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楓の着替えを取りに、伊吹が自宅に帰ると、高校から封筒が届いていた。
中身を見て、伊吹は愕然とする。

内容は、暴力事件を起こした事で、特待生制度の資格を剥奪するというものだった。
授業料の免除が無くなってしまえば、伊吹は学校には通えなくなってしまう。

「どうしよう、僕……」

退学という文字が伊吹の頭を過った。
特待生なのに、事件を起こしてしまったから仕方ないのかもしれない。きっと学校では、大騒ぎになっていただろう。
だけど、このままでは秀吾と仲直りするチャンスもないままになってしまう。

呆然としたまま封筒を握っていると、チャイムが鳴った。



「は〜い」

玄関のドアを開けると、さっきの外国人が立っていた。
名前は確か、藤乃がマリウスと呼んでいた。

仁王立ちした背の高い男に見下ろされて、一瞬びくりと固まったが、切羽詰まった相手の様子に気が付いた。

「やっぱりちんちくりんじゃないか! 何度見ても納得できない」

指を刺されてしまった。
でも、腰の位置からして違うので、伊吹はその通りだとしか思わない。

「オマエみたいなのをドロボウネコと言うんだろ! そんなだらしない体でフジノを誑かしたのか? オマエみたいなのがボクに適うはずがないんだから、さっさとフジノから離れてくれないか」

必死な様子に、彼が本当に藤乃を求めているのがわかった。
それなのに、なぜ藤乃を悲しませてしまったのだろう。

「どうして藤乃君がいいんですか? あなたには他にもお付き合いしている人がいるのに……」
「黙れ! ボクにはフジノが必要なんだ! フジノが側にいてくれなかったら、当主の修業も手に付かない」
「修業しているんですか?」
「そうだ! 修業はとても大変だから、フジノに支えてもらいたいんだ」
「側に誰かがいないと、疲れちゃいますか?」
「ああ、そうなんだよ。完璧であるためには、どこに憩える場所が必要なんだ」
「それは藤乃君でないと駄目ですか?」
「当たり前だよ。ボクはフジノがいないと駄目なのに、なのに……」

緑色の瞳が潤み始め、マリウスはまたポロポロと泣き始めた。

「僕と藤乃君がお付き合いすると聞いてどうでしたか? 悲しかったのは藤乃君も一緒です。藤乃君を大切にして欲しいです」
「う、ううっ、フジノォォ」

しゃがみ込んでグズグズと泣き崩れるマリウスを伊吹は側で見守った。

「……ズズッ」

しばらくそうしていると、鼻を啜りながらマリウスが顔を上げた。

「キミは、ボクが怒鳴って悪口を言っても、そうやって慰めようとしてくれるのか。フジノは、そんなキミに愛を抱いたのだろうか」

ウルウルの瞳で、じっと伊吹を見つめてきた。

「ちょっと失礼」

一言断りを入れてから、マリウスの手が伸びて、伊吹のメガネを外した。
裸眼になると、急に視界がぼやけてしまう。だけど、目の前の緑色の瞳が、驚きに見開くのが何となくわかった。

「ッなんて事だ!?」
「ヒッ!」
「ヤマトヤデシコがここにいたぞ!!」

カバッと大きな体で抱きつかれてしまった。
伊吹は恐怖のあまり悲鳴すらあげられず、ブルブル震えながら真っ青になる。

「──変質者!! 伊吹から離れろっ」

すぐに駆け付けた藤乃が、抱きつくマリウスを伊吹から引き剥がしてくれた。

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