広い病室の真ん中に、立派な造りのベッドが鎮座している。
そのベッドの中には、顔中を包帯でぐるぐる巻きにされた患者が、クッションを背に上半身を起こしていた。

「それでは、伊吹君の包帯を取りますね」

ベッドにいるミイラもどきは伊吹だった。
顔だけミイラ状態の伊吹に、優しげな風貌のメガネの医師が、見た目同様に優しい声音で話しかける。
人に優しくされると何故か緊張してしまう伊吹は、ドキドキしながら小さく頷くと、傍らにいた母親の楓も不安そうに返事をした。

「はい、先生。よろしくお願いします」
「安心してください。伊吹君は大丈夫ですから」
「そうだよ楓姉さん。田邊さんは最高の医者ですから、伊吹の怪我も元通りの肌に戻るよ」

楓に語りかけるのは、スーツ姿の男、華京院志鶴だ。
志鶴は伊吹の父親の弟で、父親が亡くなった今でも、伊吹の本当の父親のように大切にしてくれている。

貴族の末裔である華京院家は、名立たる名家だった。
銀行の頭取や政治家、警察官僚などを輩出するような家柄で、華京院家は政治経済に影響を及ぼすとも言われている。
そんな華京院家の本家の子息が、伊吹の父親だった。
名家のお坊ちゃんだったはずの伊吹の父親だが、一般家庭の娘である楓と結婚するために、華京院家を捨ててしまったのだ。
だから、華京院家から縁を切られても当然なのに、志鶴は伊吹達を兄の大切な忘れ形見として扱ってくれている。

そんな志鶴が、伊吹が学校で顔中血まみれになって意識を失っていた事を知ると、かつてないほどの剣幕で怒りを露にしていた。
伊吹を特別室に入院させ、最高の医師をつけさせようとする志鶴に、いつもはやんわりと辞退する楓も、息子の惨事にショック状態だったため、言われるがまま従ったのだった。

包帯が徐々にはずされ、伊吹の肌が見えてくる。
田邊の細く長い指が、頬やこめかみなどに貼ってある大きな絆創膏をゆっくり剥がした。

「傷口は塞がりましたね。退院して大丈夫でしょう。痕が残らないように、このままモイストヒーリングを継続します。保湿性を高める特別な絆創膏を処方しますので、毎日取り替えてください」
「先生、ありがとうございます」
「良かったね、伊吹」

楓と志鶴が嬉しそうにしている。伊吹がうずうずしていると、田邊から手鏡を渡された。

「……ぼやけて見えません」
「そうだったわね」

楓が伊吹にメガネを渡す。
改めて鏡を見ると、いつも通りだけど、いつも通りではないメガネ姿の伊吹が映っていた。
まん丸頬っぺたが、心なしか存在感を無くしていたのだ。
でも、メスを入れたと言う伊吹の顔は、それを思わせないくらいに綺麗な肌になっていた。

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