「秀吾君……」

秀吾が、光希とくっついて歩いていたのは、伊吹はとてもショックだった。
旧校舎を見たくなくて、伊吹は屋上で蹲っていた。

(暫く時間が欲しいって、別れるって意味だったの?)

だから伊吹ではなくて、光希と一緒に歩いていたのだろうか。
秀吾を信じているけれど、自分の目で見てしまった場面に、伊吹の心はグラグラ揺れて不安にさせられる。

「我慢しないで、もっとくっついておけば良かった……」

光希みたいに、押せ押せの方が良かったんなら、伊吹だって手くらいはもっと繋ぎたかった。

(でも、緊張して汗かいちゃうから、結局繋げないんだよね……)


「ちょっとお前!!」

ぼんやりしていた伊吹の耳に、大きな声が突き刺さる。はっとしながら顔を上げると、目の前に光希がいた。
よりによって光希が現れて、そしてその勢いにびくっと伊吹の肩が揺れる。

おまけに、光希の雰囲気が何だか怖い。メガネの向こうから、憎しみを込めて伊吹を見ているような気がした。

「秀吾から離れる決心はついたのか?」
「へっ?」
「お前みたいな地味な奴なんか、秀吾が相手にするはずないんだから。秀吾を脅して付きまとってるんだろ! お前のせいで秀吾が迷惑してるんだからな!!」
「そっそんな事ないはずだよ……」
「嘘付くな! そうじゃなきゃ、秀吾が俺だけのものになるはずなんだ!! タケルも湊もみんなみんな俺が好きなんだから、秀吾だって本当は俺が好きなんだ!」
「そんな、」
「うるさい!!」

光希に突き飛ばされた。華奢な見た目に反して力が強かったらしく、重い伊吹もあっさりと倒されてしまう。
コンクリートに打ち付けた背中が痛む。それを我慢しながら立ち上がろうとして、光希に胸ぐらを掴まれた。

メガネの向こうから睨まれる。震えてしまうくらい光希が怖い。
憎いと言うむき出しの感情をぶつけられるのは、初めてだった。

「俺が前から欲しかったのに、お前が邪魔したんだ! 一人ぼっちの秀吾を慰めるのは俺だったのに、お前がっ、お前なんかいなくなればいいんだ!!」

左からの衝撃に、また伊吹が倒れた。
頬っぺたを叩かれたんだと理解したとたんに、次の衝撃が伊吹を襲う。
ぐわんぐわんと、ひどい耳鳴りがした。顔中がすごく痛くて目の前が真っ白になり、そのまま伊吹の意識は遠退いた。

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