あの録音が元で蓮が酷い目に遭ったのなら、犯人は極限られた人物だと言える。
あまり大袈裟に騒ぎ立てないで、遥都と一緒に様子を見ることになった。

様子が可笑しかった遥都だが、拓海にあんなふうに吐露したためか、しばらくしたら落ち着いていて、そんな提案をしてくれたのだ。

遥都とは、お互いに依存していた時期があったから、和葉と離れたことで、その時の拓海に対する執着心のようなものが甦ってしまったのだろう。
和葉の身代わりのような関わりだったから、同じ相手に取られると感じてしまっても無理もないのかもしれない。

「拓海」
「は、はいっ」

名前を呼ばれて、慌てて顔を上げた。目の前にいるのは、茶碗を片手にした悠真だ。

拓海が作った野菜のカレー炒めと悠真の組み合わせは、やっぱり何だか違和感がある。
夕食の準備をしようとした所で悠真が部屋にやって来たので、こうして一緒に食事をすることになったのだが、テーブルに並ぶのは庶民的な料理だけだ。
それでも悠真は毎回完食してくれるので、作り甲斐はあった。

「明日のことで緊張しているのか?」
「あ、いえ、少し……」
「反対している者はいないから安心していい。俺に文句を言う奴はいないから、取り敢えず堂々としてろ」

明日は生徒会の顔合わせがある。悠真も気にして、拓海に会いに来てくれたのだろう。

悠真に、蓮とのことを聞いてみたい。
そうは思うけれど、倉林に言わないで欲しいと頼まれているため無闇に口には出来なかった。

「そうですよね。先輩に恥をかかせないようにするので、失敗してもフォローお願いします。聖蘭へ提出する資料を作るんですよね。あそこ女子校だったと思うのですが、男子校の資料が役に立つんですね」
「まあ、色々な」

拓海は首をかしげた。
悠真が言葉を濁すようにするのが珍しいからだ。

「何れ知ることになるだろうから、先に言っておく」
「は、はい」
「あそこには、俺の許婚がいるんだ」
「えっ? えぇぇっ!!」

許婚だなんて、高校生で同性しか好きにならない拓海には遠くてあやふやなものだった。しかし、今までぼやけていたものが、急に現実味を帯びてしまったような気がする。

以前も悠真から許婚の存在について聞いたことがあるが、あの時よりも衝撃が大きい。
食欲をそそる筈のカレー料理だけど、拓海は箸をテーブルに置いた。

「許婚……」
「拓海?」
「先輩は、その方の為に資料を作るんですか?」
「いや、理事長に頼まれたからだ」

あっさりそう言った悠真に、どこかで安心している自分に拓海は愕然とする。

許婚と想い合って幸せのうちに結婚してもらいたいと考えていた。悠真に幸せになってもらいたくて、確かにそう思っていたはずなのに、それじゃ嫌だと見捨て欲しくないと感じている自分も存在している。

これでは遥都の時の二の舞になってしまいそうで、拓海は俄かに恐怖を覚えた。

[ 8/24 ]


[mokuji]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -