「ようこそ、桐條学園へ。荷物はこれだけ?」

遥都は、拓海を校内に招き入れながら、さり気なく荷物を手に取ろうとしてくる。そんな所も、遥都がモテる所以なのかもしれない。

「これだけだから自分で持てるよ。大きいのは寮に届いてると思う」
「拓海は一人部屋になったんだよね」
「そうだよ。特待生って本当に凄いんだね」
「凄いのは拓海だよ。頑張ったね」

遥都は笑顔で拓海の髪を撫でた。
今までと変わらない態度で接してくる遥都だが、和葉との関係はどうなったのだろう。
冬休みの時は付き合っていなかったようだが、あれから時間も経ったし、何か変化があったかもしれない。

「あのさ、遥都」
「ん、何?」
「えーっとね、」

それとなく和葉について聞いてみたいが、いざ尋ねようとすると勇気が必要だった。
言いだしにくくて、拓海が口籠もっていると、校舎側の方向から三人の生徒がこちらに向かって来ているのに気が付いた。その中の、小柄な生徒が一生懸命に手を振っている。

「ハルトー!」
「……和葉」
「え?」

遥都の呟きが耳に入った。手を振りながら小走りに駆けてくるのが、あの和葉らしい。
前回はショックのあまりよく見ていなかったが、改めて見るとずいぶん可愛らしい人だ。

「ハルト、さがしたよ」

和葉は飛び付くように遥都のそばまで来ると、自分より背の高い遥都を見上げながら、小さく首をかしげた。
何だか仕草もいちいち可愛らしい。
そんな可愛い和葉と王子様みたいな遥都は、端から見ればお似合いのような気がして、拓海の気分は一気に沈む。

サラサラの黒髪に白い肌。薔薇色とはこんな色かと思うようなピンクの頬と唇。その上、キラキラした黒目で甘えるように見つめられれば、殆んどの人間は好意しか持てないだろう。
自分には真似できないと、拓海はつくづく思った。

「ハルトこんな所にいたんだ。あのね、会議が早まったんだって」
「電話で良かったのに」
「木崎」

わざわざ迎えに来たのに対して、遥都はあっさり返した。それを怒ったような声音でたしなめたのは和葉ではなく、彼の後ろにいた大きな生徒だった。
背の高い遥都よりも大きい。短髪で男らしく、この人もまた整った顔立ちをしている。軍服が似合いそうだ。

不意に、その隣にいる生徒と目が合った。
拓海と目が合うと柔らかく微笑んだ彼も、また美形だ。彼の方は、和服が似合いそうな涼やかな雰囲気をまとっている。
思えばこの学園の生徒とは、美形としか今までに出会っていない。
イケメンに弱い拓海だが、こう美形ばかりだと息苦しく感じていまう。何となくこの先が不安になってしまった。

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