一ノ瀬秀吾が笑うと、周りにいた人達はうっとりととろけたような表情になる。

日に透けたような柔らかい髪の色、そして甘く優しい顔が柔和に綻べば、見ている自分だって幸せになれる。陽だまりのような笑顔を思い出し、片村伊吹はほっこりと温まる胸に手をあてた。

皆をとろけさせる一ノ瀬秀吾は、見た目同様に優しくて頭もいい。
伊吹は高校に入学して彼の存在を知ったが、中学から系列校に通っていた秀吾は、先輩方からも目を掛けられていて、一年生になって間もなく、生徒会長から直々に生徒会補佐に指名されたのだ。
優秀な生徒会役員にも引けを取らずに仕事をこなし、最近は更にその人気も高まっているらしい。

そんな才色兼備な一ノ瀬秀吾と正反対なのは、チビデブ眼鏡で地味な自分だった。
チョコレート色の髪は天然だが、天パのせいで放っておくとくるんくるんが激しくなる。クラスの虐めっ子からはカラスの巣だとからかわれていた。
そんな鳥の巣頭の下には、大きめなメガネと肉付きの良い頬っぺたが存在を主張している。
オーラも存在感もない、クラスではいてもいなくても変わらない。毒にも薬にもならないのがこの自分、片村伊吹だった。

そんな自分が、太陽の欠けらを身に纏ったように、キラキラしている秀吾を好きになるのは簡単だった。
でも、自分の事は良く分かっているから、それが決して叶わぬ恋だと言う事もよーく理解していた。

傍から見たって、誰もが秀吾と伊吹は不釣り合いだって思うはず。だけど、そんなチビデブ眼鏡で地味な伊吹に、秀吾は恋をしたのだった。
天変地異の前触れか、それとも完璧ゆえに恋愛に関しては弊害があったのか、秀吾は伊吹に告白したのだ。
ビックリしながら、頭に血が上って気絶する伊吹を秀吾が甲斐甲斐しく看病した後、ようやく落ち着いた伊吹は秀吾の本気を知り、晴れてお付き合いする事となったのだった。

伊吹は今でも信じられない。
あのキラキラした秀吾が、自分とお付き合いしている。優しくて、格好良くて、大好きな秀吾が、何の取り柄もない伊吹を大切にしてくれるなんて、本当は夢なんじゃないかと思ってしまう。

伊吹は、ふわふわと柔らかい雲の上にいるような気持ちだった。
この時までは。

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