倉林は帰ってしまったが、彼が残していった衝撃は大きい。

「……拓海」
「あっ、ごめん遥都。お茶でも飲む?」
「ううん大丈夫だよ。拓海、びっくりしてるの?」

遥都が様子をうかがうように拓海を覗き込む。

「うん。でもさっきのあれ、何かの間違いだと思うんだ、やっぱり。蓮は彼女一筋だったから」
「そう」
「遥都は知ってたの? あの会話の内容」
「さっき初めて聞いたよ。僕はもう和葉から離れているからね」

遥都の言葉で、サロンでの和葉とのやり取りを思い出してしまった。
遥都が和葉から離れて良かったと言うのが拓海の本音だった。
けど、出来るなら拓海がここに乗り込む前に離れていて欲しかった。そしたら拓海は、あんな場面を見なくても済んだかもしれない。
遥都と和葉の思い出したくない場面が甦って、拓海は咄嗟に俯いた。

「拓海、会長は駄目だよ」
「遥都?」

顔を上げて遥都を見る。表情の無い遥都は久しぶりで、拓海は小さく息を呑んだ。

「会長は婚約者もいるし、それに誰のものにもならないって宣言してるんだ。さっきの篠宮君のは本当か分からないようだけど、でも会長を好きになったら、あんな風に縋ってみても冷たくあしらわれるだけなんだ」
「ちょっと待って遥都。俺は別に会長が好きな訳じゃないよ」
「今はそうかもしれないけど、これから一緒に仕事するんでしょう。そしたら好きになるかもしれない」

確かに悠真は魅力的だと思う。だけど、よりによって遥都にそんな風に言われてしまい、拓海はショックだった。
何も言えなくなっていたのを遥都は肯定したと捉えたようだ。

「否定出来ないよね」
「何、遥都どうしたの?」
「心配してるんだ。会長を好きにならないで。なるべく会長に近付かないで」

遥都が悲しげな表情で訴える。
だが、拓海も悲しかった。
遥都に失恋したと思って、どん底だった拓海を引き上げてくれたのは悠真だ。遥都が和葉が好きだと分かってはいたけれど、先に拓海から離れて行った遥都に、悠真の事は言わないで欲しかった。

「中瀬先輩を尊敬してるんだ。だから、役に立ちたいって思ってるよ」
「駄目だよ」
「遥都、心配してくれてるのは分かるけど、俺が誰を好きになったって構わないだろ。もし中瀬先輩を好きになって傷付いたとしても、それは俺自身の問題だから」

きっぱりと言った拓海を遥都が引き寄せた。
思いの外強い力で引っ張られて、拓海は遥都の腕にしっかりと収められる。

「僕は嫌だ。拓海が他の奴に傷付けられるのは」
「何も、好きになるって決まった訳じゃないのに」
「和葉が……」
「山岸先輩?」
「僕が和葉から離れる条件は、拓海を会長に近付けさせないってことだったんだ」
「なっ、なんだよそれ!」

拓海は両腕を突っ張って遥都から離れようとしたが、強く抱き竦められてそれはかなわなかった。

「拓海は特待生ってことで優秀だし、綺麗だから会長に近付けたくなかったんじゃないかな。和葉だけじゃないよ。会長に近付く者を排除しようとする人たちはたくさんいるんだ」
「可笑しいよ。どうして離れるのに条件が必要なんだ?」
「仕方ないよ。和葉は寂しがり屋だからね」
「だからって!」
「だからだよ。そんな和葉が盲目的に会長を慕っているから怖いんだ」
「遥都……」
「拓海には、会長に近付いて欲しくなかった」

遥都が切なげに呟くのを拓海は複雑な思いで聞いていた。

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