拓海は目の前に立つ悠真を見上げた。
艶やかな黒髪に肌理の細かそうな白い肌。形の良い二重の目は思慮深そうで、真っ直ぐな鼻梁のその下には程よい厚さの唇。顔立ちはつくづく整っていると思う。
それに優しくて頭も良ければ、誰だって憧れるし、好きになってしまうに違いない。

考え方はともかく、和葉だって一途に悠真を想っているのだ。
あんなに涙を流していたのだから、深く傷付いていたに違いない。

「大丈夫か?」

悠真が拓海に声をかけた。
拓海を見る悠真の視線。その黒い瞳に、和葉の性格がああなったのは、悠真の魔性にあてられた所為だと勘ぐってしまいたくなった。

「先輩の罪深さを身を持って感じているところです。でも、俺だって、それなりに覚悟はできてるつもりなので大丈夫ですよ。二人ともありがとうございました」
「その覚悟は立派だけどさ藤沢、泣き落としされないように気を付けなよ」
「うん」

頷いた拓海を水島は信用ならないといった目で見てくる。

「あいつらがこんな目立つ所に藤沢を呼んだのはさ、藤沢が山岸先輩を泣かせたって噂にするためだったんじゃないの?」
「えっ、そうだったの?」

そんな狡い考えがあったようには思えなかったが、拓海の考えが甘いのだろうか。
そんなふうに戸惑う拓海を見て、水島は盛大な溜め息をついた。

「そう不安がるな水島。俺の補佐はちゃんと俺が守る」
「せ、先輩……」

悠真の言葉に、拓海の心臓が物凄く跳ね上がった。
口では大丈夫だと言ったものの、不安がないわけではなかった拓海にとって、それは頼もしい言葉に感じられる。

それにしても、助けるだの守るだの、女の子にではなく拓海に平然と言ってしまえる悠真は相変わらずさすがだと思う。

「俺も先輩の迷惑にならないように頑張ります」

そう返すと、悠真は目を細めて微笑んだ。

「あーはいはい。そういうのは生徒会室とかでやって下さいませんかね。ほら、行くぞ藤沢」

呆れたように言った水島に、拓海は腕を引かれるようにしながらサロンから連れ出された。


◇◇◇


拓海が部屋に戻って暫らくすると、遥都と倉林が訪れた。

「この前はごめんねぇ」
「もう大丈夫ですから」

今だに気に病んだように言う倉林に、拓海は笑いながら返事をする。
すると、倉林の表情がぱっと輝いた。

「嬉しい! もっといっぱい笑って!!」
「副会長」
「あーうん、ごめんなさい」

年下の遥都に嗜められ、うなだれる倉林をソファーに案内して、拓海も向かい側に座る。遥都は拓海の隣に着いていた。

「あのさ、これから一緒に生徒会で仕事をするでしょー」
「はい、宜しくお願いします」
「うん、宜しくねぇ。それでね、わだかまりを残したままにしない方がいいって、ハルトンと話してたんだぁ」
「わだかまり、ですか? もしかして、蓮のこと?」
「そうだよぉ。どうしてあの子と会長を引き離したかったか、理由を話そうかなって。たっくんと楽しくお仕事がしたいと思ったからだね。ホントは秘密にしておきたかったんだけどねぇ」
「先輩……」

倉林は、垂れ気味の目尻をますます下に下げて、困ったように微笑んだ。

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