「えー、泣いてるからって、先輩が虐められてたとは限らないでしょ」

ねえ、と、水島は窓からこっそり様子を伺っていた生徒達に同意を求めたが、皆はサッと視線を逸らしてしまった。

「レオ、何で? 酷いよ、酷い……」
「水島、てめぇよくも!」
「あ、状況をよく見てくださいね、三枝先輩。俺からは手は出しませんから」

両手を上げながらそう言った水島に、三枝は窓の方に視線を向けると大きく舌打ちをした。

「ほら藤沢」
「……あの、山岸先輩。遥都のやることを許すとか許さないとか、先輩が一々許可するものじゃないと思うんです。遥都は優しいから、側にいた時も先輩のことを大切にしていたと思います。だからこそ、先輩が遥都自身を踏み躙るようなことを仰らないで欲しいです」
「そんな、言い掛かりだよ。ぼくだってハルトを大切にしてたのに」
「お前ら、いい加減にしろ!」

三枝が怒鳴る。
拓海の隣に立っていた水島が、テーブルを挟んで三枝と対峙した。

「和葉を傷付けるヤツは許さねぇ! 風紀室に連れて行く」
「何で!?」

理由が分からない。それに、風紀室に入ったが最後、三枝に何をされるか分かったものではないので、絶対に拒否したい。

「騒がしいな」

その時、そんな台詞と共に野次馬となっていた生徒の後ろから、悠真が姿を見せた。

「ゆ……、会長」
「ユウマ!!」

泣いていた和葉が、真っ先に悠真に飛び付いて行く。

悠真のブレザーを掴みながら、必死な様子で縋るように見上げる和葉を見て、拓海はモヤモヤする自分の胸の辺りを押さえた。

「ぼく、悲しくて」
「なぜ、」
「ユウマ……」

言葉を返した悠真のその反応が嬉しかったのか、自分を見下ろしてくる黒い瞳を和葉は魅入るように見つめ返している。

「なぜ、和葉と拓海が一緒にいるんだ?」
「えっ?」
「聞けば、会長補佐について話していたらしいが」

悠真の言葉に、唇を噛んだ和葉は、それから小さく首を左右に振った。

「だって! どうしてあの子を補佐にしたの? ぼくに言い掛かりをつけるような意地悪な子なんだよ?」
「和葉、俺が彼を選んだんだ。俺に見る目がないとでも言うのか?」
「違うよユウマ! きっとユウマは騙されてるんだ。ユウマを騙すなんて……」

悠真のブレザーから手を離した和葉は、その視線を拓海に向けた。
涙に濡れた瞳は、しっかりと拓海を見据えている。

「俺は騙したりしてません。会長を騙すなんて大それたこと、出来るはずないんですから」

そんなの絶対に無理だ。悠真を騙そうと思ってもすぐにばれてしまうに違いない。逆に悠真に騙されていても、拓海は気付けない自信だってある。

拓海がきっぱりと言い切ると、水島が堪え切れないとばかりに吹き出した。

「確かに、藤沢はそんな器用なこと出来ないよな」
「……だそうだ、和葉。それに、突然任命された彼に、俺を騙す暇などなかっただろう」
「そんなの信じられない!」

目に沢山の涙を浮かべていた和葉は、身を翻して入り口に駆け出した。その拍子に、涙の粒がいくつも流れて行く。
三枝も、サロンから出て行く和葉を追い掛けて行ってしまった。

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