「あ、ご、ごめんなさい」
「みのり?」

急にみのりが震えだしたのを訝しく思いながら、俺はみのりの視線を追って振り返る。

「稔……」

視線の先には稔が立っていた。
真っ直ぐに立つ稔は、いつにも増して表情が無い。
俺が声をかけようとすると、側にいたみのりが、ふらりと倒れそうになった。

「ごめんなさい……」

謝りながら倒れるみのりを、俺は咄嗟に抱き留める。
腕の中で青ざめながらグッタリしているみのりを見て、俺は頭に血が上った。

「お前か? みのりに可笑しな事を言ったのは」
「違う」
「なら、何でお前を見てみのりが謝りながら倒れたんだ!?」

怒鳴る俺を稔は困ったように見るが、反論はしなかった。

「もういい。お前には幻滅した」
「……わかった」

そう返答した稔を俺は呆気に取られながら見返した。

急に頭が冷えて行く。
切り捨てる台詞を言ったのは俺自身だ。それなのに、稔に了承されて愕然としている。

「──何やってんの?」

そんな時、聞き慣れた間の抜けたような言い回しが俺の意識を戻した。

稔が勢い良く階段を駆け上って行く。
みのりを抱いていた俺は、そんな稔の後ろ姿を見送っていた。

「追いかけないの?」
「琉生」
「追いかけないのか?」

再度琉生に尋ねられた時、ぎゅっと制服を握られた。不安そうな目で、みのりが俺を見上げてくる。
転がったままの小さなケーキに視線を移してから、俺はみのりを抱き上げた。

「みのりを連れて行く」
「あの子は?」

しつこいくらいの琉生の問いかけに、唇を噛み締めていた稔の姿が浮かぶ。
だが、俺は腕の中のみのりを手放せなかった。
また後で稔に話を聞けばいいと、そう考えていた。

「ふーん」

目を眇た琉生に、俺の動きが止まる。
久々に見る琉生の鋭い視線に、俺は背筋を凍らせた。

「みのりを連れてさっさと行けよ」

口調まで変わってしまった琉生を訝しく思いながらも、俺は震えるみのりを抱いて保健室に向かった。

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