みのりの手から落ちた紙袋から、色とりどりの小さな丸いケーキが零れるのを、俺は驚きながら見つめていた。

この四月頃から、時々ロッカーに入っていた一口サイズの小さなケーキ。
始めは捨てようかと思っていたが、俺のロッカーの鍵を知る者は限られているし、小さなケーキに施されたカラフルなデコレーションが目に入り、何となく生徒会室まで持って行った。

会計が飛び付いて食いやがったが、美味しいと言うだけで他は何ともない。毒も怪しい薬なんかも入っていない事がわかり、俺も小さなケーキを口にした。

ケーキには、食べやすいように短い串が刺さっている。それを見た副会長が、ケーキポップだとか何とかと言うものだと蘊蓄を垂らしていたが、そんな事よりも、視界の端であいつが口元を綻ばせていた事に気を取られていた。

そのケーキが、みのりが持っていた紙袋から飛び出している。

「あっ、篤志君」
「これ、みのりが持ってきてくれていたのか?」
「ご、ごめんなさい」

大きな目に涙を溜めて謝るみのりに、俺は穏やかに話しかけた。

「いいんだ。これ、気に入ってたんだ。そうか、みのりだったのか」
「……うん」
「みのりらしいな。カラフルで可愛いケーキ」

疲れた時に癒されていた。見た目も、ほんのりした甘味も。
それが、みのりの手によるものだったと思えば、無性にいとおしく思う。

「ごめんなさい」
「いや、急に声をかけて驚かせてしまったのが悪かったんだ。せっかく作ってくれたのにすまない」

小さくなって謝るみのりが可愛くて、俺は華奢な体を抱き締めた。

「また作ってくれるか?」
「うん」

腕にすっぽりと収まるみのり。小さく頷いた大切な幼なじみを俺は幸せな気持ちで抱き締めていた。

「篤志君、会長のお仕事は?」
「もうしばらく大丈夫だ」
「でも、忙しいから邪魔したらいけないって聞いたよ。だから、僕我慢しようと思ってたんだ」
「誰だ? みのりにそんな事を言ったのは」

瞳を潤ませるみのりを見て、怒りが込み上げてくる。
俺は自分の仕事をきちんとこなした上でみのりと会っているんだ。何も知らない他人に、とやかく言われる筋合いはない。
きっと、みのりに嫉妬した誰かに言われたんだろう。

「みのりを生徒会に迎えたいくらいだ」

その方が何かと安全だと思ってそう言った時、物音が聞こえて咄嗟にみのりから離れた。
こんな所を親衛隊にでも見られたら不味かったのを思い出した。

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