「けど……、俺、年明けにここを受験するつもりだったんです」

拓海は遥都に勧められて、この学園に通うつもりでいた。
成績優秀者になると、学費も寮での生活も公立に通うよりもいいらしいからだ。
母親の負担は出来るだけ減らしたいし、遥都からも拓海なら大丈夫だとお墨付きももらっていたので、その気になってしまっていた。

遊ぶお金もなかった拓海は、通学している中学での成績も生活態度も評判が良く、学校から推薦状をもらえる権利も獲得している。
人気高校の推薦とあって、かなり倍率が高かった中で、遥都と同じ学園に通うために努力した。
しかし、それも今となっては複雑だった。
学園に通う事になれば遥都との接点は増えるだろうし、遥都と和葉のイチャイチャだって見せつけられるかもしれないのだから。

「恋愛ごときで、この学園を諦めるのは馬鹿げてる」
「やっぱ、そうですよねえ」

何せ付属の大学も全国に名を轟かせるような所だ。将来の事を考えるなら、ここを受験して損することはないだろう。

「特殊な部分もあるが、それなりに楽しい所だ。せっかくなんだし、受けるだけ受けてみればいいんじゃないか。受かるとも限らないしな」
「確かにその通りですけど、不吉な事言わないでくださいよ。デリケートな時期なんですからね」
「自信がないのか?」
「鋭意努力中です」
「ならいい、受験しろよ。それに受かったとしても、入学まで間がある。それなりに整理はつくんじゃないか」
「だといいんですけどね」

拓海なりにたくさん思い出の詰まった初恋だ。
そう簡単に気持ちを切り替えられるとは思えなかったが、受験という一大イベントに集中すれば、少しはましになるかもしれない。
それに、拓海だっていつまでも遥都に依存しているわけにはいかない。

「お前、無理に忘れようとすれば逆に深みにはまりそうだな」
「えーっ、そんなのは嫌だ。もうぐずぐず考えたくないし、これからは前向きにやっていくつもりです」

拓海がそう言うと、美男子は面白がるような表情で拓海を見る。
拓海はそんな美男子の全身を改めて見返した。
ダルそうだった始めの頃と違って、楽しそうに接してくるようになったけれど、やっぱりどこか疲れているように見える。それをだらしないとは感じさせず、陰りを帯びた色気のように見えるのが凄いと拓海は思った。

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