丘の上の王子様頬をピンク色に染めて困ったような、恥ずかしそうな顔をしているラブリイちゃん。
その向かいには、煌びやかな衣装に負けない、サッラサラの長い金髪を後ろでひと括りにした、湖より澄んだ碧い瞳のどこか涼しげなイケメンが立っている。
そう、紛うことなきイケメン。
イケメン……。
「ていッ!!」
手刀で金髪野郎の手を叩き落としてやったぞ。
僕の目の前で、ラブリイちゃんの手を握るなんて不届きなことが許されるはずがないのだ!
フハハ……
「ひょわぁ!?」
満足していたのもつかの間、もの凄い勢いで何者かに羽交い締めにされてしまった。
がっちりホールドされたうえ、相手は随分デカいヤツみたいで、僕の足が宙に浮いている。
「何をする!」
「この、無礼者め!!」
「それはこっちの台詞だ!」
僕にこんな真似をするなんてけしからん! お仕置きが必要なようだな!!
魔法でビリビリ攻撃をしてやろうと構えたら、金髪野郎が口を出してきた。
「ダミアン、その子を放しておあげ。か弱きヒロインは丁重に扱わなくてはならないよ」
「はっ、かしこまりました」
僕はか弱くもないし、ヒロインでもないんだがな!
あっさりと下におろされた後、ダミアンと呼ばれたヤツを振り返って見てみると、案の定滅茶苦茶デカい男だった。
……しかし何故リボンタイをしてるんだ。いかつい男にそれは目の毒にしかならないだろう!?
リボンタイは、是非ともそこにいるラブリイちゃんに!
「この子はきっと、私が他の子の手を握ってしまったから、ヤキモチを焼いてしまったんだろうね」
「そうでしたか。君、いくら嫉妬したからって、あんな真似をしてはいけません」
「……はあぁ?」
どこをどうしたらそうなるんだ!? そもそも僕とこの金髪野郎は初対面じゃないか!!
「君、済まないね。私はすでに心を奪われてしまったのだ、この可憐な姫君に」
そう言って、金髪野郎はラブリイちゃんに向かって微笑んだ。
ラブリイちゃんは真っ赤になりながら、プルプル震えている。
オイ、フザケルナ!
ラブリイちゃんは僕のエンジェルだぞ!!
しかもどうして好きでもないヤツに振られた感じになっているんだ!?
もう我慢ならん!
僕のスペシャルビリビリ攻撃をお見舞いしてやる!!
「えいっ、ビリビリビリビリ!!」
「うはぁっ!!」
「アシュレイ様!?」
金髪野郎が片膝を突いた。
フハハハハ! 恐れ入ったか!! これが偉大な僕の力なのだ!!
「い、今のは……!」
片膝を突いたまま、金髪野郎が僕を見上げる。
ここで僕を罵ったら、次はもっと威力を上げて攻撃してやるからな!
「ビビッと来た! これが、これこそが運命のビビッと恋なのか……!?」
「本当でございますか、アシュレイ様!!」
「……は?」
金髪野郎が目の前に立ったかと思えば、僕の手を握ってきた。
「おい、ちょっと何だ急に。離せっ」
手を振りほどこうとしても、スッポンの如く全く離れない。
「はーなーせー!」
「恥ずかしがらずに、君の素顔を私に見せたまえ。きっともっとビビッとする筈だ。さあ!」
「やめろぉぉお!」
またもやダミアンが背後に回り、僕のフードに手をかけた!
「あなた方、そろそろお時間ざます」
講堂の扉が開いて、中からザーマスが現れた!
ヒロイン科の教師であるザーマスは、一度注意を始めるとネチネチネチネチ嫌になるくらい口煩いのだ!
ダミアンの手がフードから離れる。日頃は対面したくないザーマスだが、今回は助かったぞ!
「まあ、丘の上の王子様。王子様のお席はあちらざますわ。生徒達が待ってるざます」
「ああ、わかった」
お……王子様、だと!?
あの、丘の上にでかでかと構える城の王子だと言うのか、こいつが!?
……ただのとんちんかんなナルシストではなかったのか。
「可憐な君とビビッと恋の君よ。後ほど迎えに行く」
「遠慮する!」
「あら? あなたの様なフードッ子が、ヒロイン科にいたざますか?」
はっ……!!
しまった! ザーマスに正体がバレたら死ぬ! 確実に殺される、鬼教師の鬼島に!!
「私のビビッと恋の君だ」
「まあまあ、それはそれは、大変おめでとうございますざます」
「そしてこの者が、私が一目惚れした、可憐な君だ」
「まあラブリイ、良かったざますわねえ! この子はヒロイン科の優秀な生徒なんざますのよ、オホホホホざます」
ザーマスは喜んでいるが、ラブリイちゃんは浮かない顔だ。
……当然だろうとも。
こんな金髪野郎に一目惚れされて、嬉しい筈がないのだ!
大丈夫だよ、ラブリイちゃん。金髪野郎にぎゃふんと言わせてから、僕が君を攫ってあげるからね!!
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