初体験のヒロイン科「俺のヒメ。ずっとキミを守り続ける」
何をトチ狂った事を言ってるんだこの野郎!
目の前で爽やかに微笑むヒイロに、僕はありったけの憎悪を込めて口を開いた。
「嬉しい! ずっと僕のそばにいてくれよ」
……って、なに言っちゃってるんだ僕のくちィィイ!?
どうしたどうした、一体どうしたんだよ!
「もちろんだよヒメ!」
とびっきり眩しい笑顔で、ヒイロが僕を抱き締めた。
「ぎゃぁぁぁぁあ!!」
はっ、として目を見開くと、僕は保健室のベッドの中にいた。
「ゆ、夢か、良かった。……って良くなーい!」
またもや僕は、ヒイロにちゅうをされてしまった。その上、ちっ、ちくびまで……!!
──ゾクゾクッ
思い出しただけで虫酸が走る。
僕をこんな体にして、どうしてくれるんだヒイロの奴!
「目覚めた早々元気いっぱいだね」
「うわっ!?」
出た! 白衣のイケメンがっ。
誰だ!?
敵か!!
滅びろイケメン!!
「私はバーチュの保健室の先生だよ」
安心させるように穏やかに微笑むイケメン。
言っておくが、僕はそんな笑顔になんか全く癒されないんだからな!
しかしバーチュと言う事は、ここはヒーロー科とヒロイン科がある棟か。
なぜこんな場所に僕が……?
ちなみに、ヴィラン科がある棟(バイス)は隔離されている上に、結界が張り巡らされているため雑魚キャラはバーチュには入れないのだ。
「あ、制服は遠慮なく着てていいよ。よくある事だからストックはたくさんあるんだ」
「ん? 制服?」
ヴィラン科に制服はないのだが……。
視線を下に向けて目にしたのは、ヒロイン科の制服を着た僕の体だった。
「なんっじゃコリャァァァァ!?」
「ぴったりだね」
「おい貴様! 僕にこんなものを着せて何を考えてるんだ!?」
「それは……。ピンク色のちくびが丸出しで、風邪引いちゃうなって考えてたかな」
「……帰らせていただきます」
「そうかい? もうヴィラン科の生徒に虐められないように気を付けるんだよ」
「言うなぁぁぁぁ!」
僕はベッドから降りて一目散に保健室から飛び出した。
***
早く帰らないと、また鬼島にシメられる。
……それにしても、ここはどこだ?
フードを少し持ち上げて辺りを見回す。
フードとは言っても、ローブのフードではない。ヒロイン科の制服のセーラー部分を魔法でフードに改造したのだ。
しかし、バイスより遥かに広いなここは。綺麗だし、いい匂いはするし……。
「ヒメ!?」
「ひっ!」
後ろから抱き付かれた!
ゾワゾワと僕の体に悪寒が走る!!
「ヒメ、元気になって良かった」
「ヒッ、ヒイロ……!」
ぐるんと回転させられて、目の前に現れるにっくきヒイロの爽やかな笑顔。
その隣には、あのキザな銀髪野郎までいる。
「ふっ、俺にはフードで誰だかわからなかったが?」
「ははっ、俺は匂いでヒメだってすぐにわかるぞ」
犬かっ怖いわ!!
てか銀髪ぅぅ! フードを引っ張ろうとするなぁぁぁ!
「銀太郎、ヒメが嫌がってる」
「ぎんだろう!?」
フードを死守しながら、銀髪を見上げる。
サラサラの長い髪に色白の彫りの深い端整な顔。
どう見てもカタカナ顔じゃないか! 詐欺か!?
「ヒメ、俺達と講堂に行こう」
「御免蒙る! その前に言っておく事がある。僕の名前はヒメではない、ヒメルだ!!」
「ふっ、ヒイロ、せっかくのヒロイン科と合同授業だぞ。このままだと遅れるのではないか?」
「うん、大丈夫!」
「なんだと……!? 僕も一緒に行くに決まってるじゃないか!」
ヒロイン科と合同授業なんてものがあるのか!?
なんて羨ましいんだヒーロー科のやつらめ!
よし、特別に僕も参加してやるからな。
フフ、フフフフフ……。
「そうか、ならヒメ、早く行こう!」
そんなセリフとともに、ふわりと体が宙に浮いた。
ヒイロの下からのアップ。
──だからヒイロ!! なぜ僕を姫抱きにするんだ?
「お前何のつもりだ!」
「うん?」
「降ろせ!!」
「この方が早いよ」
そう言うやいなや、猛スピードでヒイロが移動する。
「廊下は走るなぁぁぁ!」
僕の叫びも虚しく、あっという間に立派な講堂の前に到着してしまった。
ヒイロに降ろされ、ようやく自由の身になった僕の目の前に、可愛らしいヒロイン科の生徒達が!
色とりどりのピッチピチ!!
ここはどこだ天国か!?
その中にいた、大きな目がつり気味の気の強そうなカワイ子ちゃんが、僕の前にずいっと進んで来た。
近くで見ても可愛いじゃないか!
「ヒロイン科はこっちだよ。おいでよ」
「はい、喜んで!」
「ヒメ、また後でな」
爽やかな笑顔を残して、ヒイロと銀髪は講堂の中へ消えた。
その途端、そばにいたカワイ子ちゃんの表情が一変した。
「ちょっとアナタ! ヒイロくんと銀太郎くんに馴れ馴れしくしないでよ!」
「な、なんと……!?」
「フードなんか被って、見るからに陰湿そうなアナタに、ヒイロくんは不釣り合いなんだからっ。さっさといなくなってよね!」
プンスカ怒ってる姿も可愛い。
だがしかし、非常に聞き捨てならない内容が聞こえたぞ!?
「ヒイロなんかに馴れ馴れしくするわけない! どうせなら、キミみたいな子と馴れ馴れしくしたいんだがな!!」
「あれ、あなたは魔法使いさん……?」
「えっ?」
とっても可愛らしい声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには僕のエンジェルラブリイちゃんが……!
大きなピンク色の瞳をきゅるんと僕に向けるラブリイちゃん。
ま、まさか、今の僕のセリフを聞いてしまったのだろうか!?
「ごっ、誤解だよぉぉぉ!!」
決して、決して浮気じゃないんだ、ラブリイちゃん!!
そりゃあの子もちょっと可愛いと思ったけど、ラブリイちゃんの方が何倍も可愛いし!
ラブリイちゃんの誤解を解こうと思った矢先、目の前に壁が現れた。
かと思ったら違った。誰かの背中だ。
僕とラブリイちゃんの間に入り込むとは不届きな! 何者だ?
「きゃっ!」
ラブリイちゃんの悲鳴?
急いで回り込むと、壁の主がラブリイちゃんの手を握っている。
「なんと、可憐な……。我が妻に相応しい」
金髪碧眼のいかにも王子様な姿の男が、うっとりとラブリイちゃんを見つめていた。
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