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ナギは、体温の低いイリヤに触れた。
イリヤの悲しみが、少しでも癒されて欲しい。
傷のある背中を避け、腰に腕を回して近づいても、イリヤは拒まない。自分の体温を分けるように、ナギはイリヤの肩口に頬を寄せた。

「ナギ、すまない」

泣き言を言った自分を責めるように謝りながら、イリヤがナギを抱きしめる。
少し落ち着きを取り戻したのか、伝わる呼吸も静かになってきた。

「イリヤとは状況が違うけど、俺も両親の命をすぐ側で奪われたんだ」
「ナギ……」

ナギを抱くイリヤの腕に力が籠もった。

「相手を恨んだりもしたけど、側にいてくれた人がいたから淋しくなかった」
「ナギの中はいつも綺麗だ。それに温かい。それはナギが悲しみを乗り越えたからなのか。だからなのか、息が出来なくなりそうな時に、ナギを思うと楽になる」

イリヤの言葉は、アクロア城で傷付けられたナギの心を癒していく。
イリヤはナギを必要とし、ナギの心と体の傷を治した。

「俺も、イリヤの側にいたい。向こうに誰もいなくなって、ここでもいらない存在になったのかと思った。でも、イリヤが必要だと言ってくれた」

ナギが顔を上げると、イリヤも見つめ返してくる。そんな些細なことで、ナギは満たされた気持ちになれる。

「イリヤの側にいたいと思ったのに、イリヤがいなくなってしまったら、俺はどうすればいい? イリヤと一緒にいたいから、俺もついて行くよ」

イリヤは何も言わず、ナギを抱く腕に再び力を込めた。



◇◇◇



大人しく寝台で俯せになっているイリヤを見て、ナギの口元が自然と綻ぶ。
ナギが押し切る形で、イリヤの手当てを始める事となった。ナギの治療をイリヤが受け入れてくれた事が嬉しい。

イリヤの背中は痛々しい。
爛れたような傷ばかりの中に、残っている数枚の鱗。黒龍の力の証であるこの鱗が無くなった時、イリヤはどうなってしまうのだろうか。

リンジュは効かないと言っていたが、ナギは庭のリンジュを使う。
蘇ったこの花のように、イリヤの背中も元通りになってもらいたいからだ。
傷の無いイリヤの肌は、夢で見た綺麗な女性と同じ色で美しいとナギは思う。あの人がこの傷を知ったなら、きっと悲しむだろう。

どうか、イリヤの心と体の傷を癒して欲しい。
ナギはリンジュに願いを込めた。

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