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印象的な赤い東屋に、とても綺麗な女性がいた。
太陽の光を集めたような黄金色の肌に、ウェーブのかかった豊かな長い黒髪。艶やかな紅い唇は、優しげに綻んでいた。

その女性の元へ、中学生くらいの少年が駆け寄って来る。
小麦色の肌の少年は大人びた顔立ちをしていたが、手にしていた大輪の白い花が、無邪気な印象を与えていた。身を屈めた女性の黒髪に、簪のように花を挿す。
女性は白い花に負けないくらい美しい笑みを浮かべ、少年に頬を寄せながら優しく抱き締めた。


目覚めたナギは重い体を押して起き上がった。
ナギの傍で青年が突っ伏して眠っている。彼の顔色が悪いのは、きっとナギの所為だろう。

「ごめんね」

青年に謝ったナギは、寝台から降りると庭が見渡せる扉を開いた。
赤い東屋には、今は誰もいない。だが、イリヤの気配をすぐ近くに感じる。急に気配を感じられるようになったのを不思議に思いながら、ナギはイリヤの気配を辿った。

咲き乱れるリンジュの中にイリヤはいた。
先程まで枯れかけていたはずのリンジュが、綺麗に咲いている。

「ナギ!」

ナギに気付いたイリヤが、駆け寄って抱き付いてくる。その姿が、夢の中の少年の姿と重なった。

「ナギ、リンジュが咲いてる」
「イリヤの力?」
「違う、ナギが甦らせたんだ。力が大きすぎて屋敷の外までリンジュが溢れてる。体は大丈夫?」
「俺が咲かせた……?」

戸惑いながらイリヤを見上げた。頷くイリヤは、まだ顔色が悪い。
血は見えないが、きっと今でもその背中からは血が流れているはずだ。

「俺の事よりイリヤだよ。手当てしよう。リンジュを使えば少しはましになるかもしれない」
「手当てしても意味が無い」

そう言って離れようとするイリヤの手をナギが掴む。

「どうして? イリヤが大妃様に呪いを掛けてるから?」

イリヤは唇を固く結んでナギを見下ろした。
そこには哀しみの色が見える。

「そんな事をしてたら、イリヤだって死ぬかもしれないのに」
「ナギ、心配してくれるんだ」
「そんな苦しそうな顔をしてたら、放っておけないよ」
「俺の心配をしてくれるのはナギだけだ」
「そんな筈ないよ。イリヤが亡くなったご家族のためにそんなに無茶な事をしていたら、ご家族は悲しむと思う」

唇を噛み締めたイリヤが、ナギを抱き締めてくる。まるで縋るようなその様子に、ナギはそっとイリヤの肩に触れた。

「無理だ。皆を殺された恨みを簡単に消すことは出来ない」
「イリヤ……」
「俺を命懸けで守ってくれていた母上を呆気なく殺した。ようやく幸せになれると思っていのに」

荒れ狂う怒りを必死に抑えるように、イリヤは震えていた。
イリヤの深い悲しみが伝わり、ナギの心もバラバラに砕けそうな程苦しい。だが、イリヤはこれ以上の苦しみをたった一人で味わっているのだ。
イリヤの悲しみも大きな傷も、ナギには癒せるすべはなかったが、苦しみに塗れたままで朽ち果てて欲しくはなかった。

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