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「そこをどいて」
「出来ません」
「何で? 俺の言う事がきけないの?」

執務室の前を固めていた近衛兵が、ソウタの行く手を阻んでいた。
その時、執務室の扉が静かに開き、アレクセイが姿を見せる。

「アレクセイ!!」

近衛兵をよけて、ソウタがアレクセイに駆け寄った。

「どうして会ってくれなかったんだよ」
「一体どうしたと言うのだ。何かあったのか?」
「知ってるんでしょう!? ナギの事だよ!」

詰め寄るソウタの肩をアレクセイが抱き止める。そのまま細い肩を引き寄せると、アレクセイはソウタの亜麻色の瞳を覗き込んだ。

「二人で話をしよう」
「……うん、分かった」


◇◇◇


「ま、まって、アレクセイ」

長椅子に座るアレクセイの上に乗せられたソウタは、後ろから体をまさぐる大きな手を引き離そうとしていた。
簡単に乱れてしまう巫覡の衣裳からは、既にソウタの白い肌が露になっている。

「アレクセイ、ナギの話をして。ナギが黒龍の巫覡だったて本当? アレクセイは知っていたの? 黒龍が現れなかったのに、ナギが巫覡だなんて可笑しいよね。大体黒龍は死んだって言うのに、何なんだよ!」
「ロザノワの王子に何か言われたのか、ソウタ」

アレクセイの唇がソウタの首筋に触れ、長いブロンドが肌をくすぐる。体を震わせながら、ソウタは零れそうになる吐息をこらえた。

毎日のようにソウタと身を重ねていた、美しく、聡明な王。政務の後回しにされたのは不満だったが、またこうしてソウタを欲しがっている。
アレクセイは、ソウタだけを見ていればいいのだ。

「黒は全ての色を集めた色だ」
「……ん、どう言う事?」
「黒龍はただの龍ではない。その黒龍の巫覡は、娼婦のようにならずとも力を与える事が出来る」
「アレクセイ! 何が言いたいわけ?」

振り返ったソウタが、アレクセイを睨む。
そんなソウタに微笑みながら、アレクセイの手はソウタの下肢へと伸びた。

「あっ、アレクセイ……!」

片腕で体を拘束されたまま、もう片方の手が悪戯に動く。
性技に長けたアレクセイに、ソウタは直ぐに身も心も翻弄されてしまう。簡単に乱れてしまわないように、ソウタは必死に耐えなくてはならなかった。

「淫らで愚かな白龍の巫覡よ。あれを逃がした罪は重い」
「ナギの事? 俺は逃がしてなんかっ、んっ、あっアレクセイ」
「あれがお前に向けていた執着を断ち切らせ、イリヤが入り込む隙を与えたのだろう。せっかく抱いてやっていたと言うのに、あれがいないなら、もう用はない」
「……えっ、アレクセイ?」

アレクセイが合図を鳴らした。直ぐにキールと共に近衛兵が室内に入って来る。
彼らは、アレクセイの膝の上で乱れているソウタの姿を見て、驚いて立ち止まった。

「ふ、巫覡様……っ」
「キールッ入って来るなっ!」
「構わん。ソウタ、ナギがいなくなって寂しいのだろう。あやつらに慰めてもらうといい」
「やっ、やだよ!」

憤慨したように見上げたソウタの視界に、凍てついたアレクセイの瞳が映った。
あんなにソウタを求めていた筈のアレクセイの変わり様に、息を呑んで身を震わせる。

「どうして……」

アレクセイを見上げたまま、ソウタの目から涙が流れた。
涙の伝う白い頬を優しげに撫でられ、ソウタは瞬きをしながらアレクセイを見つめる。普段は薄い色のアレクセイの瞳が、黒みを帯びたように濃くなっているように見えた。

「黒龍の巫覡を騙る者を逃した罰だ」
「……そんな、意味がわからないよ」
「ソウタを慈しむ為に、あれは必要なのだよ。このままでは可愛いソウタを抱くことが出来ない。そうなれば、溢れる白龍の力を他の者達に吸い取って貰わなくてはならなくなるぞ」
「や、嫌だ……、アレクセイ」
「ならば、わかるな」

アレクセイの腕の中で、ソウタは小さく頷いた。

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