イケない花たち(1)


「キャー!」
「いやいやぁぁ!!」

渋々屋上に向かっていると、可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。

「やめてぇっ、いやぁぁん!」
「やだぁ! ひゃぁあんっ!」

け、けしからん!!
こんなけしからん悲鳴達はヒロイン科の生徒のものに違いない!
一体ナニが起こっていると言うんだ!!

悲鳴が聞こえてくる屋上に向かって、猛スピードですっ飛んで行く。
すると、屋上に到着した僕の視界に入ってきたのは、うにょうにょと蠢くたくさんの物体だった。

「あれは、触手!?」

なんと屋上は触手だらけだったのだ。
しかも植物系!!

屋上庭園の花達が何かの影響で触手化したらしく、至るところで緑色の長い触手がうねうねしてる。
そのうちのいくつかが、カワイ子ちゃん二人を捕えていた。

触手に捕われたヒロイン……。
なんて、なんて状況なんだ!!
僕はトキメク胸を抑えながら、こっそり生やした木の影に隠れた。

「いやぁっ、誰かたすけてぇ!」

ヒロイン科の制服であるセーラータイプの短い上着の裾から、触手が入り込んでモゾモゾと動く。短いズボンの隙間からは、細い触手がこれまたいっぱい入り込んで……!! 一体、その中でナニが行われているんですか!!?
触手が蠢く度に、華奢な体がピクピクしてるし!!

「い、いやぁ、ダメなのぉ」
「あんんっ、たすけてぇ」

頬を紅潮させながら涙を流すカワイ子ちゃん達。ヒロイン科の美味しそうな香りが漂ってきた。
……いいぞ、もっとヤレおまえ達!!

僕は興奮のあまり身を乗り出す。と、その時、視界にピンク色の影が飛び込んで来た。

「その子達を離してあげて!」

ラ、ラブリイちゃん!?

触手の前に果敢に立ちはだかったのは、ピンク色の髪をなびかせた僕の可愛いラブリイちゃんだった。
きゅっと括れた腰にちっちゃいお尻。
ああ可愛いラブリイちゃん。愛しのラブリイちゃんが、触手に向かってプンスカ怒ってる。

て言うか、駄目だよ危ないから!
しょ、触手に捕まったりなんかしたら、あられもない大変な事になってしまうんだぞ!!

なんて事は決して口には出さないが、かつてないくらいにハラハラドキドキしながら可愛いラブリイちゃんを見守っていると、辺りに野太い声が響いた。

「あーら、これはまたカワイイ子が来たのねぇ」

そんなセリフと共に姿を現したのは、オカマ……、いや、ヴィラン科のメドゥシアナだ。
こいつは筋肉質の長身で骨太だが、その実態はおネエなのだ!
メドゥシアナの背中には、大きな花がくっついている。毒々しい紫色の花は、メドゥシアナにはお似合いだ。

「お願い、みんなを離し……きゃあ!!」

触手がラブリイちゃんをあっさりと捕まえてしまった!!
てかおい、まだラブリイちゃんが喋ってる途中ではないか!

ラブリイちゃんの華奢な手足が、がっちり触手に拘束されている。
お友達を助けるつもりで逆に捕まるなんて、ヒロインスキルが高すぎるよラブリイちゃん!!

恐怖で目を潤ませるラブリイちゃんの目の前に、緑色の触手が迫る。

うあぁぁぁ! ラブリイちゃぁぁぁん!!

「貴様、やめろ!」
「その子達を離せ!!」

そんな時、屋上にお決まりの台詞が響いた。
なんて事だ! ヒーローらしいタイミングで、忌々しい奴ら現れてしまった!!
ラブリイちゃんの表情が、嬉しそうにぱっと輝く。

「ヒーローさんたち……!」

ガッチリ系のヒーローと王子風のヒーローが、メドゥシアナに向かってキックを繰り出す。
しかし、メドゥシアナがヒーロー達に向かってウィンクすると、二人は急に力を失って倒れてしまった。

何を隠そう、メドゥシアナのウィンクに秘められたチャームにかかると、かなり気持ち悪くなってしまうのだ!!
そんなエセチャームにあっさりやられるなんて、さてはお前ら雑魚キャラだな!?

そんな雑魚ヒーロー達が、メドゥシアナの触手に捕われた。

「くそっ、離せ!」
「ち、力が入らない……」
「おい、しっかりしろ!」

青ざめながら何とか逃れようとするヒーロー達を、舌なめずりしながらメドゥシアナが見つめる。その表情は、今にもヨダレを垂らさんばかりで、本当に気持ち悪い。

「ウフフ、美味しそうな坊や達だこと。このメス豚どもからピチピチエネルギーを吸収したら、たっぷり可愛がってあげるわね。ウフフ」

そう、メドゥシアナの好物は、逞しい男。
ヒーロー科の奴らみたいなのをどうにかするのが大好きなのだ!
お前らザマァ見ろ! 今すぐ手籠めにされてしまうがいい!!

僕が高らかに笑いたかったのを堪えていたその時、ラブリイちゃんの悲鳴が聞こえてきた。

「先ずは、この一番可愛い子から手っ取り早くピチピチエネルギーを頂いてからね」
「いやあぁっ!!」

なんと、うねうね蠢く触手が、次々にラブリイちゃんに向かっていってしまった。


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