21

アクロア城内にある、賓客を招く為の広間は、城門からさほど離れていない場所にあった。
室内は、数々の絵画や瑞々しい摘みたての花が至る所に飾られ、大きなテーブルの上には、アリエフが用意させた午後の軽食が並べられている。
キールを伴ったソウタは、壁ぎわに置かれた賓客用の椅子に、つまらなそうに凭れていた。

ソウタの様子を視界の端で確認したアリエフは、向かいに座るロンヤオに目を向ける。
アクロアとロザノワは敵対関係ではないが、交流もない国だ。そんな国へただ一人で現れたロンヤオは、平然と寛いだ様子を見せている。
黒龍についての情報を持っていなければ、アリエフは早々に追い出していただろう。

「……エイメイ、お前はこいつと面識があったな。国交のないロザノワの王子だ。まさかお前、間諜だったとは言うなよ」
「まあまあ、そう啀むなよ王子。確かにこいつはロザノワの人間だった。だが、エイメイがこの国に来たのは、迫害されている黒龍を心配する余りの事だったんだ。薄くても、白龍の巫覡の血が流れていれば仕方のない事だ。ロザノワは関係ない。だが、エイメイを迎えて今の地位に置いたのはお前のお兄さんだろう。エイメイがふてぶてしいのか、国王が酔狂なのか。ま、その両方だろうな」
「私が大切だったのは黒龍ではなく、巫覡様です」

これまでポーカーフェイスを貫いていたアリエフだったが、静かに隣に立っていたエイメイを睨み付けた。
エイメイは得体の知れない人間だったが、アレクセイが側に置いていたからアリエフも信用していたのだ。

「お前、兄上と国を護るつもりではなかったのか!? 今までの宰相としての立場は全て嘘だったのか!」
「アリエフ殿下、それは違います。私は確かにこの国を大切にしていました。アクロアを護る事は、巫覡様を守る事と繋がります。アレクセイ様は……、私はあの方を護らずにはいられないでしょう」
「本当だろうな? 少しでも兄上に背く素振りを見せたら、俺が斬る」
「大丈夫です。殿下の剣が私の血で汚れる事はないでしょう」

片膝を付き、アクロア式の最敬礼の姿勢をとるエイメイを見ながら、アリエフは巫覡とは龍への信仰が深いものなのだろうと考えた。
龍を求める。しかし、それならば、ソウタは巫覡にしては龍への執着心が薄いように感じられた。

「ところで、肝心の国王様はどうしたんだ?」
「ロンヤオ殿、アリエフ殿下の側付きに手を出しておいて、何を仰っているんです。今頃牢に入れられていても可笑しくはないんですよ」
「勝手に侵入してきた者に、わざわざ兄上が出向く必要はない」
「悪かったよ。変装してちょっと驚かそうとしただけだ。それより、国王様は今頃、河の氾濫の対応に追われているんだろう。それとも、急に土地が干上がったか?」
「何を言っている。アクロアでそんな事があるはずないだろう」
「隠さずとも分かっているんだぜ。青龍が大層ご立腹だったからな。とっくに何かしでかしているだろうさ」
「青龍だと?」

なぜ、そこで青龍の名が出て来たのか。アリエフは、正面にある青い瞳を見据えた。
ロンヤオの言った通り、確かにアクロア内では次々に問題が起こり始めている。
しかし、対応に追われてあくせくしているのは大臣達で、アレクセイはいつも通り淡々と政務をこなしていた。

何があっても涼しい顔をしているアレクセイは、思えば、イリヤが黒龍に囚われた時にも変わらなかった。
イリヤを弟のように可愛がっていたのは、アリエフだけではないと思っていたのだが。

[ 22/26 ]


[mokuji]

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -