20

嘗て、薄紅の花を咲かせていたリンジュは見る影もなかった。
ソウタは枯れかけたリンジュを一瞥すると、低頭するビナに声をかける。

「どうしてリンジュは戻らないの?」
「申し訳ございません。ナギがいなくなってしまってからと言うもの、花は萎れるばかりでして。手は尽くしましたが、一向に蘇る兆しはありません」
「ナギは関係ない。それとも、ナギがリンジュに毒でも撒いて逃げたとでも言うの?」
「恐れながら、ナギはその様な事は……。ナギはリンジュをとても大切にしておりました」
「そうかな。ナギは俺達を騙して、イリヤと繋がっていたんだよ」
「イリヤと?」

ビナが驚いたように顔を上げた。

「も、もしかしたら、ナギは黒龍の……」
「何?」
「だとしたら、納得できます。リンジュはナギが咲かせたものかもしれません。ナギが戻りましたら、リンジュは再び咲くはずです」
「ビナよ、出鱈目な事を言うな!」

再び頭を下げたビナに、キールが怒鳴りつける。ビナは低頭した体勢のまま、口を開いた。

「恐れながら、イリヤと繋がりがあると言う事は、黒龍と縁している可能性があります。黒龍の力は強大です。リンジュへ及ぼす力も強いのでしょう。それに何より、こちらに巫覡様がいらっしゃったにも関わらず、リンジュは蘇りません」
「ビナ、貴様は何て事を言うんだ」
「キール、いいんだ。可愛そうに、ビナもナギに騙されているんだね。例え本当にナギがリンジュに関係があるなら、どうしてリンジュを枯らせてしまったんだ? イリヤと同じように、大妃を苦しませたいからなんじゃないの? リンジュがなければ、大妃はどうなる?」
「ビナもイリヤと繋がりがあるかもしれない。こいつを捕らえよ!」

騎士達がビナを取り囲んだ。

「白龍の巫覡、見事だな」

突然、聞き慣れない低い声がした。
キールがソウタを庇いながら身構える。間近にいたのに、キールは気配に気付く事が出来なかった。

ソウタが振り返ると、見知らぬ男と視線が合った。サファイアブルーの強い瞳が、真っ直ぐにソウタを射ぬく。

「白龍の巫覡は、人心掌握に長けているのか。これでは白龍が悲しむのも分かる」
「お前は何者だ!」
「その爺さんは離してやれよ。だだの花好きのじじいに何が出来るって言うんだ。それより、問題はその綺麗な兄ちゃんにあるんだぜ?」
「貴様! 巫覡様を愚弄するのか!?」

キールが剣を抜いた。
だがその時、アリエフと共にエイメイが駆けつける。そして、男とキールの間に、アリエフが立ち塞がった。

「剣を収めろ、キール」
「アリエフ殿下、しかしながらこの者は、巫覡様を貶めました」
「この男はロザノワの第二王子だ」
「ロザノワ? まさか……!」
「本当ですよ。ロンヤオ殿、勝手に城内をうろつかれては困ります」

エイメイの言葉に、ソウタを護衛していた騎士達は、戸惑うような素振りを見せた。

「ロンヤオ殿、話は中で聞く。ソウタ、お前も一緒に来るんだ」

アリエフがソウタに告げた。

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