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「イリヤはどうしてあんなに血が流れる程の怪我をしたんですか?」
「イリヤ様のあの傷は、アクロアを呪い始めた頃からのものです。ナギ様の前では包帯を巻いて傷を押さえていました」
「そんな……」

ナギが初めて出会った時も、イリヤは血を流していた。あれは怪我のせいではなかったと言う事だ。
あの時から既に、イリヤは血を流し続けていたのだ。

「呪いって、どうしてそこまでして……。イリヤに何があったんですか?」
「それは、イリヤ様の家族が殺されたせいなんです」
「殺された?」
「はい。……イリヤ様のお母様は、遠い異国の方でした」

アクロアの山を越えたずっと先にある国。
その国で内乱が起こり、争いから逃れたイリヤの母親は、幼いイリヤを連れてこのアクロアまで逃げ延びて来た。

イリヤを守りながら長い旅を続け、最後に険しい山を越えた彼女は、アクロアの地で力尽きてしまった。そんな彼女を救ったのが、巡視中だった前アクロアの王だった。
王が助けた時、彼女はある国の王家の紋章を携えていた。それを知った王は、そのまま彼女の身柄を引き取り、王手ずから亡命の手助けをしたのだった。

イリヤと母親は、アクロア城で傷ついた体を養生する事となる。そんな彼女達の元へ、先王は事ある毎に足を運んでいた。
それを良く思わなかったのは、妻である現大妃だ。
大妃は他の側室には無関心を貫いたが、夫の心を奪ってしまった美しい異国の姫は許せなかった。彼女を憎み、その身を狙い始める。
ついにはイリヤまでが危険に曝され、彼女はイリヤを連れて、先王の弟である、アーロンの元へ身を寄せた。

アクロアの領主であったアーロンは、イリヤを守りながら彼女の体と心の傷を癒した。そのうちに二人は愛し合うようになり、彼女は新たな命をその身に宿す。
しかし、幸せは永くは続かなかった。

「大妃の手の者によって、アーロン様とイリヤ様のお母様は、殺されてしまいました」
「そんな、酷い……」

イリヤの過去を知り、ナギは胸を押さえながら俯く。
ナギに優しかったイリヤは苦しんでいた。あんなに血を流して体をボロボロにしながら、孤独の中で戦っていたのだ。

「イリヤ様の慟哭は激しいものでした。老いて傷付いた黒龍を呼び寄せるくらいに」
「黒龍……」
「イリヤ様は黒龍から力を受け継ぎました。イリヤ様の呪いは、黒龍の力です。背中に生えた龍の鱗を剥がして呪いをかけます。龍が人間を呪う事は許されません。だから、イリヤ様の剥がした鱗の傷は、治す事が出来ないんです」
「リンジュでも?」

青年は悲しげな表情で、地面に視線を落とす。
ナギも足元を見ると、一面に広がるリンジュは、茶色く枯れかかっていた。

「あの傷はリンジュでも治せません。ですが、イリヤ様にとって、リンジュは大切なものです。このお庭のリンジュは、ナギ様から頂いたお花から育てたと聞きました」

それは、ナギとイリヤが初めて出会った時に渡したリンジュの事なのだろうか。しかし、あの時渡したリンジュは、干して乾燥させたものだったはずだ。
その事を話すと、青年は静かに首を横に振った。

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