13

城壁にぽっかりと開けられた風穴。そこから、暗くなり始めた空を見上げながら、エイメイは奥歯を噛み締めた。

「……エイメイ」

擦れた声で名を呼ばれ、グリップを握る手に力が込もる。

「ソウタ様、ナギがここにいたのは何故ですか?」

エイメイの怒りを感じ取ったのか、ソウタは震えるように再度エイメイの名を呼ぶに留まった。
それ以上追及することはなく、エイメイはナギがいなくなった空を見続ける。

ナギは泣いていた。そして、イリヤの元へ行ってしまった。
こうなってしまったら、もうどうしようもない。

「アクロアも終わりだな」
「……え?」
「──ソウタ!!」

エイメイの言葉にソウタが訝しげに問い返そうとした時、大きな音をたてながら扉が開いた。

「ソウタ、無事か!?」

駆け付けたアリエフが、室内の惨状に息を呑んだ。

「殿下、危険ですっ」
「煩い、黙れ」

押し留めようとする騎士達を掻き分けながら、アリエフは急いでソウタの元に駆け寄る。今だ震えるソウタの肩を抱き、剣を握り締めたままいつになく険しい表情のエイメイを見た。

「イリヤか? ここには結界を施していたはずだ。あいつが攻撃出来るはずがない」
「イリヤが、……ナギを連れて行きました」
「なに? どういう事だ!」

眉間に深い皺を刻んだ後、アリエフは直ぐに驚いたように目を見開いた。

「まさか……」

何かに思い当たったのか、アリエフが険しい表情で呟く。
エイメイは、そんなアリエフの様子を表情も無く見守り、ソウタは戸惑ったように見上げていた。

「キール! ソウタを頼む」
「はっ」
「アリエフ?」

突然、突き放すようにキールへ預けられたソウタは、マントを翻して部屋を出て行くアリエフを驚きながら見送った。

ソウタは訳の分からない焦燥に駆られる。ソウタ自身の知らない所で、ナギを軸に何かが動き出してしまったようだ。

「エイメイ、何なの? どうしてナギがあの男に連れて行かれたの? もしかして、殺されちゃうの?」
「ナギが心配なのですか?」
「当たり前でしょう!」

いつもと変わらないように見えて、エイメイが冷たい。
穏やかだったエイメイが、どうしてナギがいなくなった事でこうも変わってしまうのか、ソウタには納得出来なかった。
ナギはアクロアには必要ないと言ったのは、その口なのに。

「もしかして、ナギはイリヤって男の仲間だったの? アレクセイ達を騙して、俺を襲おうとしたの?」

ソウタが悲しみに震えながら訴えた内容に、周囲にいた騎士達に動揺が走った。

「ナギはあなたを裏切ってはいない。早くソウタ様を安全な場所へ」
「ナギが裏切ってないだなんて、嘘だよ! 」
「ソウタ様は、我々がお護りいたします」

大切だった友人に裏切られ、悲しみに暮れるソウタを壊れ物の様に武骨な手が抱える。
騎士達に護られながら、ソウタは部屋を去って行った。

一人、瓦礫の中に残ったエイメイは、眉根を寄せながら瞳を閉じた。

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