保健室でせんせいと


「ヒメルくん」
「ラブリイちゃん」

周りに咲く花達よりも、ずっとずっと可憐なラブリイちゃんが、僕の目の前で微笑んでる。そして、恥ずかしそうに上目遣いをしながら、プルプルの唇をうっすら開いて……。

はっ、これはまさかまさかの、ちゅ、ちゅ、ちゅー顔ですかぁぁぁっ!?

「ねぇ、早くちゅーしてよぅ……」
「ラ、ラブリイちゃん!!」

んなっ、なんてことだ! ラブリイちゃんからの、ちちちちゅうのおねだり……!!
こんな絶好のチャンスを逃すまい!

ラブリイちゃんにぎゅーっと抱きついた。
──その途端。

「おい、ヒメル」
「はうぅっ!」

低い声と共に、おでこにものすごい衝撃を受けた。
パッと目を開くと、可愛かったラブリイちゃんの顔が、いつの間にやらやたらと男前になっている。

「……あれ?」
「ずいぶん積極的じゃねーか、ヒメル」
「お、鬼島!?」

僕の目の前には、濡れたような黒髪と青みがかった黒い瞳の鬼教師がいた。
しかも、なぜか僕は鬼島に抱きついていたらしい。
ニヤニヤと笑いながら、お返しとばかりに鬼島ががっちりと僕を拘束してくる。
一体ラブリイちゃんはどこに行ってしまったんだ?

「鬼島、ラブリイちゃんをどこに隠したんだよ」
「あ? ラブリイってぇのはヒロイン科の生徒か。今ごろイイコでお勉強してんだろ」

なんと、今さっきまで目の前にいたラブリイちゃんは、幻だったのか。
なんて儚いんだ……ラブリイちゃん……。

「てーか、教師を呼び捨てにすんじゃねーよヒメル。鬼島せ、ん、せって呼べ」

ニッと笑った厚めの唇から、鋭い牙が覗いた。笑っても恐いとはさすが鬼島だ。
鬼島はヴィラン科の教師で、昔はたくさんワルいことをしてきたらしいけど、今ではすっかりドラゴン○ールのピッ○ロ的キャラになっている。
肉食系ワイルドで、ワルい大人なのにちょっぴり優しいところがたまらないと、ヒロイン科の生徒達から物凄い人気だ。羨ましい。

そんなことを考えていると、鬼島の切れ長の目が細まった。フワフワと鬼島の体からは妖気が漂い始めて、なんだかめちゃめちゃ恐い。
どうしてそんなにご機嫌ナナメなんだ鬼島!

そう言えば鬼島は、強くて有名だった不良ヒーローの桃次郎を軽くぶっ潰してたことがあったんだ。思い出したら余計に恐くなってきた。

「ヒメル、お前怪人ベチャベチャに襲われたんだってなァ。それで気絶した挙げ句、ヒーロー科の奴に保健室に運ばれるたぁ、情けねぇ。あれほどフードには気を付けとけっつっただろうが」
「は、はい! 申し訳ありませんデシタ!」
「ったく、何にもされてねーだろうなァ。ケツアナは無事か? ああ?」
「ハイ、ケツアナは無事デス!」

僕がコクコクうなずくと、鬼島は「ならいい」と恐ろしい妖気を引っ込めた。
よかった。

って、ああぁぁっそうか、思い出した……!
僕は、怪人ベチャベチャに襲われて、にっくきヒイロに助けられてしまったんだ。
それで、それで……。

「ぎゃぁぁぁっ! ぼ、僕のファーストキスぅぅうわーん!」

よりによって、ヒイロにっ、ヒイロにぃぃーっ!!
やっぱり許せない、ヒイロのバカヤロー!!

「……ファーストキス?」
「い、言うなぁぁぁうわーんっ。ヒイロなんか抹殺してやるぅぅ」
「ああ、魔力を分けたっつってたな。あんなモン人工呼吸とでも思っとけ。カウントには入らねぇ」
「そ、そうなのか?」
「まあな。でも、易々とヒーロー科の野郎に触られやがって、消毒しねえとなんねーな」

黒かったはずの鬼島の瞳が、ほのかに紅になった。なんだか男前度も割り増しになったような気がする。
不思議なことに、ウルトライケメンになった鬼島を見ていると、僕の胸がドキドキしてきた。

男前な鬼島に見とれてぽやんとしていると、だんだん鬼島の顔が近づいてくる。そのうちに、僕の唇に鬼島の唇がぶちゅっとくっついてしまった。

「んっんんん……!?」

びっくりして鬼島を突っぱねようとしたけど、合わさった唇から温かい魔力が流れてきた。
それが今まで感じたことがないくらい美味しくて、僕は夢中になってそれを味わう。

「はっん、ぁっむんん」

鬼島の厚めの唇も柔らかくて気持ちイイ。
体が熱くなってきて、くにゃくにゃになっちゃいそうだ。

「んぁん、せんせ……」

もっと欲しくて、僕は口を開く。だけど、鬼島の唇はするりと離れてしまった。

「あっ、せんせぇ、もっと」
「……ふ、美味かったか? だが今日はここまでだ」
「えーっ」
「えーじゃない。お前、屋上に細工しただろ。あれを元に戻せ」
「ん、屋上? ああっ……!」

あの素晴らしい庭園が、僕の仕事だったとすっかりバレてしまったようだ。

「見事な庭園だっただろう。これからも憩いの場として活用してくれて構わない」
「いらねぇよ早く戻せ。お前の魔力に要らん虫が湧いてくるんだ。ヒメル、これ以上減点されたくないだろう、わかってんのか? 留年がいいかお仕置きがいいか、どうすんだ、選ばせてやろうかァ」
「うぅっ、ワカリマシタ」


まあ、ラブリイちゃんにおねだりされたら、また造ればいいし。
今回は、鬼島の美味しい魔力に免じて屋上を元に戻すことにした。


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