はじめてのちゅう僕は可愛いラブリイちゃんのお願い通りに、美しい花が咲き乱れる庭園を再び造り出した。
ここは、ラブリイちゃんとの甘くて切ない思い出の場所だ……。
だがしかし! 今日からはラブリイちゃんとの愛欲を謳歌する甘くてデロデロな場所となるのだ!
「フフフフ……」
今日は風が強い。ズレたフードを被り直して、僕は持ってきた小瓶を眺めた。
中には、毒々しい紫色をした粉末が入っている。これはカフンダーという珍しい花の花粉で、吸い込んだ者はみんな、たちまち質の悪い花粉症になってしまうのだ!
これをラブリイちゃんの目の前で、にっくきヒイロに振りかければ……フッフッフッフッ。
フードから覗いた僕の口元は今、不気味に歪んでいるに違いない。
見た目も能力も、こんなに悪役大魔法使いっぽい僕になら、ラブリイちゃんだって必ずメロメロになるはずだ。ラブリイちゃんのすべては僕のものさ!
うっとりと愛欲の日々に思いを馳せていると、愛しのラブリイちゃんが庭園にやってきた。
僕は隠れるために生やしておいた木の影に隠れて、そっと様子を窺う。
「ぬぬっ、あいつ、ラブリイちゃんに近すぎだ!」
ラブリイちゃんと一緒にいるのは、ヒーロー科のヒイロだ。細マッチョな長身に赤い髪と甘いマスク。ヒーロー科の黒い制服がムカつく程に似合っていた。
ピンクのほっぺを益々ピンク色に染めたラブリイちゃんに話しかけられて、爽やかに笑いかけるヒイロ。
……お、お似合いだなんて思ってないんだからな!
「滅べイケメン!」
ラブリイちゃんにガード魔法をかけてから、小瓶の蓋を開ける。
ふふふっヒイロよ、苦しみ藻掻くがよい!!
僕はヒイロに向かって小瓶を振りかけた。
だけどそんな時、ひときわ強い風がこっちに向かって叩きつけるように吹いたのだ。
「うわーっ! 目がぁ、目があぁぁぁッ」
強風に煽られた紫色の花粉が、全部僕にかかってしまった。
うおぉぉしまったー! 自分にガード魔法をかけるの忘れてたーっ!!
顔面が強烈に痺れてたまらなく痛い!
目がゴロゴロして涙が溢れて、鼻水がだらだらと流れてくる。ついでにくしゃみも止まらなくなった。
「ハックション、ハックションチクショーッ」
「……くしゃみ?」
「誰かいるのか?」
あわわわわ、気付かれてしまった。こんな惨めな姿、ラブリイちゃんには見せられないぃぃぃ!
慌てて飛躍魔法を使って庭園から飛び出した。
「って、うわぁぁぁぁぁ!?」
しまった! 花粉症の影響で、魔力をうまく扱えない!!
体が真っ逆さまに落ちてる!
庭園は校舎の屋上に造っていたから、そこから落ちてしまったみたいだ。
涙と鼻水で回りがよく見えないんだけどッ!?
「ヘルプ、ハックションへーるぷ!!」
どんどん僕の体が落下してくぅぅ!
どどどうしようクッション魔法もジャンプ魔法も何にも思い出せない!
このままじゃ地面に激突しちゃうよぉぉ!
まさに絶体絶命の大ピンチ───!!
「……って、あれ?」
地面に叩きつけられる前に、何かに片足が引っかかったみたいだ。
「た、助かった……!! ハックション!」
とりあえず下に降りよう。
逆さ吊りになった体を動かそうとしたけど、何かに引っかかった片足がびくとも動かない。
「ハックション!……て、あれ……?」
今だに涙が溢れる目をまばたきさせると、すぐそこに緑色の巨体があることに気が付いた。
「うわっ!」
何かに引っかかっていたと思っていた片足が、強い力で引っ張り上げられる。
すると、目の前にはどでかい薄紫のぶよぶよしたものが……。
「ヒィィィィ!!」
くっついた、僕の顔にぶよぶよがくっついたぁぁぁ気持ち悪い!!
「ペペッ、まじぃ! お前、顔にカフンダーなんかつけてんなよ」
「貴様、怪人ベチャベチャか!!」
「そうだ。お前すごくうまそうなのに、よけいなモン顔中にくっつけやがって」
何かに引っ掛かっていたと思ったら、怪人ベチャベチャに片足を掴まれていたらしい。
餌かと思ってひっつかんだのか?
スプラッタは免れたが、こいつに捕まったのは不味かったかもしれないな……。
宙吊りにされたまま、目の前では醜いベチャベチャのベロがうねうね動いている。
だから、気持ち悪いんだってっ!
「まずいと思うんだったら、さっさと僕を離せ!」
「嫌だね。お前、本当はうまいんだろう。いつもは誤魔化されてるけど匂うんだよな、うまそうな匂いが。こことか、どうかな?」
そう言って、怪人ベチャベチャはあろうことか僕の美しい足にベロを近付けた。
逆さまになっているから、ローブから足が丸出しになってる!
暑いからって、短パンなんかはいて来るんじゃなかった!!
「んふふふ、いい匂いだ」
「やだぁぁ! やめろよっ」
ぬちゃぬちゃの分厚いベロが、僕の足をデロデロ嘗める。ふくらはぎから太ももまで、べろんべろんと何度も往復してゾワゾワと鳥肌がたった。
ぬらぬらしてて、めちゃくちゃ気持ち悪い。
くそっ、この僕を逆さまにしたあげく、こんなにベロベロ嘗めやがって、怪人ベチャベチャめ!!
「やだやだっ、離せってば!!」
「んふふふ、うまい、うまいよ」
「あっあっ、やめろーっ」
まだラブリイちゃんのことだって嘗め回していないのに、なんで僕がべちゃべちゃにされなきゃならないんだ。
それに、なんだか魔力まで吸われているみたいで、だんだん力が抜けていく。
「んふふふっ、だんだんいい具合になってきたな」
ぐでんとなった僕に、調子にのったベチャベチャは、短パンの裾から太いベロをねじ込もうとしてきた。
「あっ、やだよっ、気持ち悪いんだからぁ!」
「んふふふ、もっと、もっと」
「いやっ、あっ、そこはダメだからっ、あっあっ、あんん」
ぬらぬらのべろが、太ももの内側を這ってズボンの中に潜り込んできた。
ヤダヤダッそこは不味いんだから!!
「ひゃっ! あっいやだぁぁっ、ああんっ」
「んふふっ、うまいうまい」
「いゃぁぁん、あっあっ、だっ、誰かたすけてー!!」
もうダメ!
ねろねろぬるぬるのベロには耐えきれない。
僕が恥も外聞もなく助けを求めたそんな時。
「やめるんだ、怪人ベチャベチャ! その子を離せ!」
「ぬぬっ、貴様はヒーロー! なぜこんなところに!?」
逆さまの僕の目の前に、なんとあのヒイロが現れた。
ヒイロはジャンプすると、長い足でベチャベチャをキックしながら、弾みで飛ばされた僕の体をふわりと抱き止める。
ものすごい早業だ。
怪人ベチャベチャの緑色の巨体は、ヒイロの一撃でひっくり返ってしまった。気絶したのか、ぴくりとも動かない。
……恐るべし、ヒーローキック。
「大丈夫かい?」
ヒイロのイケメン顔が、心配そうに僕を覗き込んだ。
アーモンド型の目に形のいい高い鼻。薄めの唇はかさかさ知らずらしく潤っている。
ちくしょう、つくづくイケメンじゃないか、滅べ、今すぐ遠慮なく!
「こんなに泣いて、怖かったな。もう大丈夫だよ」
泣いたのは怖かったからじゃないんだからなっ。今の僕は花粉症なんだから!
けれど否定しようにも、魔力を吸われてしまった僕は、くたんとヒイロに凭れていることしか出来ない。
ぐっと睨んでみても、赤くなっている目では威力は半減だ。そんな僕を見たヒイロは、爽やかに微笑むと、よしよしと頭を撫でてくる。
屈辱に震えた僕の頬が赤くなった。
ん……頭?……頭だと!?
「ひっ!」
僕は自分の視界が明るくなっていることに気付いて悲鳴を上げた。
ない、ないじゃないか!
僕のフードが……ッ。
「ローブを着ているってことは、君は魔法使いかな。魔力を吸われて動けないのか」
俺も魔力はあるから、と言って、近づくイケメン顔。
はっ、ま、まさかっ。
ものすごくいやな予感が……!
目の前に赤茶の瞳がドアップになって、ふにゃりと柔らかいものが僕の唇にくっついた。
「ちゅっ」
「〜〜〜〜!!!」
その瞬間、あまりのショックで僕の意識は遠退いた。
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[mokuji]