「リンジュのお茶を淹れてくるね」
「うん、お願い」

キッチンに入ったナギは、摘みたてのリンジュを手にした。
小さなキッチンは、無駄なものはなく堅実質素を好むビナらしい造りになっている。そんな場所で、唯一の貴重品であるリンジュの生花は、ナギのために用意していたものだ。

花びらをお湯と共にポットに入れて蒸らす。地球のハーブティーの様なものだが、リンジュはその香り同様に甘い味がする。
この仄かな甘味と含まれている成分が、疲弊したソウタを癒すのだと言う。だから、リンジュの世話し、こうしてソウタにお茶を淹れる事をナギは丹精込めて行っている。
同じ様にこの世界に来たのに、ソウタの負担は計り知れない。少しでも彼を癒したいと、ナギはいつも考えていた。

ナギ達がこの地に来た当初、アクロアには巫覡がなく、豊穣の地も緩やかに衰えを見せていたと言う。
そんな中、アクロアに巫覡が顕れたとの知らせを神殿よりもたらされ、直ぐ様アクロアは巫覡の捜索を開始した。
突然見知らぬ場所にいて、狼狽えていたナギ達を見つけたのは、巫覡を探していたエイメイ率いる騎士団だったのだ。

すぐにアクロアの城で保護された二人だったが、どちらかが龍の神子である巫覡であるはずだと、順番に神殿に閉じ込められてしまった。
その結果、ソウタがアクロアの巫覡だったことが判明した。ソウタが龍の間へ入った時に、白龍が降臨したのだ。
白龍は龍の中でも力が強い。それからは、その巫覡であるソウタも白龍のように扱われるようになった。

しかし、龍の力を王に与えるために、巫覡は王と交わらなければならないのだ。
驚愕するナギを余所に、ソウタはそれを受け入れた。ナギが何の力も持たなかったために、ソウタは自分を犠牲にして、ナギを守ってくれたのだった。


蒸らしている間に、他の準備を済ませたナギは、ソウタの隣に座る。
カップにリンジュのお茶を淹れると、早速ソウタはカップを手にした。

「慌てると焼けどするよ」
「大丈夫だって。美味しいよ。やつぱ、ナギが淹れたのが一番だな」
「そうかな。エイメイさんも上手だった気がするよ」
「あ、またエイメイの話?」

ソウタがからかうような視線をナギに向ける。ナギがエイメイの名を話題にあげると、ソウタはすぐにそんな反応を示す。
しかし、ナギは特別な意味を持っているわけではなく、周囲から疎まれているナギにとって、ただ単にエイメイの事しかソウタとの話題がないのだ。

「別に、そんなんじゃないんだけどな」
「いいから、いいから。今度はエイメイも連れてくるよ。俺がお願いすれば、アレクセイもエイメイに仕事をさせないって」
「仕事があるなら、無理しなくていいから」
「いつもあいつのワガママに付き合ってるんだから、そのくらい平気だよ。それに、アレクセイにも仕事させて少しでも体力なくしとかないと、あいつ一度盛ったら結構しつこいからさ」

明け透けなソウタの会話に、ナギの頬が赤らむ。同時に心が重たくなり、ナギの表情から笑顔がなくなった。

「ふ、ナギは相変わらずだな。別にセックスなんてどってことないのに。ナギもエイメイに抱いてもらえば? エイメイも上手そうだし、そうしなよ。気持ちイイよ」
「ちょ、ソウタ……!」
「あ……、ごめん。駄目だったんだよね。ナギを抱いたら呪われるんだっけ?」
「うん」

黒髪と黒い瞳のナギは、この世界では触れてはならないものとされていた。体を繋げた者には、死がもたらされる。
ナギ自身は違う世界から来たのだが、ここに来た事によって、本当に呪われた体になっているかもしれないのだ。
だから、すっかり抱かれることが当たり前になっている様子のソウタに対して、ナギは余計に心苦しく感じてしまっていた。

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