一際激しい破壊音が響き、ナギは立ち止まって城を振り返った。ソウタのいる塔には、強力な結界が張られているが、次々に襲い掛かる攻撃がナギを不安にさせた。

顔を上げて塔の無事を確認すると、頭上の城壁が音をたてて崩れるのが視界に入った。大きな破片が、ナギに向かって落ちてくる。
スピードを持って落ちてくる大きな塊に、避けきれない事を悟り、ナギは咄嗟に瞳を閉じた。

その時、大きな風が吹いた。人を飛ばす程強くはなかったが、その風がナギの体を吹き飛ばす。
同時に、地面を叩きつけるような激しい音がした。

見えない何かに支えられるように、静かに足が地に着く。支えていた力がなくなると、ナギはそのまま座り込んでしまった。
目の前では、瓦礫達がえぐるように地面に突き刺さっており、ナギの表情が強ばる。もし、これがナギの上に落ちていたなら、生きてはいなかった。
何の力も持たない自分の身に起こった不思議な現象に、ナギは暫し呆然とする。

不意に、言い知れない何かの気配を感じた。ナギが視線を向けたその先には、自分を見つめる男が立っていた。
長い黒髪と灰色の瞳。肌の色は褐色だった。
周囲の荒れた景色の中で、凪いだ水面のように澄んだ雰囲気を纏い、静かに、ただナギへと印象的なその灰色の瞳を向けていた。

微かに血の匂いを感じたナギは、目の前の人物を注視する。男が立っている地に赤い血が滴っていた。


──城の兵士だろうか。

それにしては違和感があるが、兵士のように鍛えられた体をしている男は、この騒動で負傷したのかもしれない。
ナギは少し震える手で、腰にぶら下げた革の袋から乾燥させた薬草、リンジュを取り出した。

「これを……。怪我には生花の煮汁を擦り込む方がいいけど。煎じて飲むのも効くから」

腰が抜けて動けないナギは、男に向かってリンジュを差し出した。
静かに男が近付き、一層血の匂いが濃くなった。血が流れる程の怪我をしているようなのに、表情も変えずに立て膝をつき、ナギに向かって手の平を差し出す。

近くで見た男は、精悍な顔立ちをしていた。くっきりした二重の目は、目尻が切れ上がり、鼻梁は高い。結ばれた唇は少し厚めだった。エイメイのような柔和さは欠けらもない、黒豹を思わせるような野性味の強い男だ。
灰色の瞳には、未だにナギが映っている。ナギの黒い瞳が珍しいのだろう。

男の手の平に、リンジュを乗せる。そこで初めてナギから視線を外した男は、自分の手の平にある薬草を見て、僅かに目を細めた。

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