快晴だった空が暗雲に覆われてしまったのは、あっと言う間の事だった。
薄暗くなり始めると同時に騎士や兵士達が行き交い、アクロア城内は俄かに騒がしくなった。

ナギが歩いていても、誰もがそれどころではないと言うように素通りして行く。ソウタの話し相手となっていたナギが、ソウタの部屋から出て来くると、いつも冷たく、あるいは射殺さんばかりに睨んでくる視線は、今は感じられなかった。

ナギが永久の辻と呼ばれる、緋色の絨毯が敷かれた廊下を歩いていると、エイメイが急ぎ足で歩いている姿があった。肩まである、美しいプラチナブロンドをなびかせて歩く様子は、普段の落ち着いた物腰とはかけ離れている。

「エイメイ様、城で何かあったのでしょうか?」
「ナギ、丁度いい所にいました。城に奇襲がありましたので、一緒に巫覡様の所へ向かいましょう」

エイメイのその言葉に、彼の背後にいた騎士達が顔を顰める。その様子が視界に入ったが、ナギはエイメイに話し掛けた。

「奇襲ですか?」
「はい。イリヤがアレクセイ様のお命を狙っているのです。ナギは私と一緒に巫覡様をお守りしましょう」
「ソウタはエイメイ様と騎士の方々がいらっしゃれば大丈夫でしょう。僕はビナ先生が心配なので」
「ナギ、外は危険です。行ってはなりません」

エイメイが真剣な表情でナギを押し留めた。
その時、硝子が割れる音と、何かが砕けたような大きな音が響いてくる。

「エイメイ様! 早く巫覡様の元へ!」

騎士達が、今すぐにでもソウタの傍に行きたいとばかりに、苛立ったように怒鳴った。

「ナギ」
「僕が行っても何の役にも立ちません。ソウ……巫覡様が怖がっていると思うので、早く行って差し上げてください」
「わかりました。ナギはくれぐれも、安全な場所で身を隠していてください」

この世界でナギを気に掛けてくれるのは、ソウタとビナ、そしてこの国の宰相であるエイメイだけだ。
優しいエイメイの後ろ姿を見送って、ナギは再び永久の辻を歩き始めた。


ビナの小屋は、城内の一番外れにある。
ビナはアクロア城に数人いる専属庭師の一人だ。もう老人だったが、その知識と技術を買われ、他の庭師達に教授するためにまだこの城で働いていた。

護りの兵士達がいた使用人用の裏口をナギはあっさり通過した。外へ出ると、物凄い雨風がナギを襲う。
今の時間、ビナは小屋で休憩しているはずだが、この風ではあの小さな木の家は簡単に壊れてしまうかもしれない。

破壊音とガラガラと城壁が崩れる音がした。
城を攻めているのは、龍を殺してその力を自分のものにしたと言う人物だと聞いた。たった一人で、護りの堅い城をここまで攻撃してしまう、他国の騎士団よりも手強い相手だった。

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