11カラムが、半ば無理矢理ノアを抱えて建物から出ると、月明かりの下、ユリエルが木に寄りかかるようにして立っていた。
漂うユリエルの煙草の香りに反応したのか、俯いていたノアが身動ぎする。
ユリエルが、カラムへと歩み寄った。
「ご苦労だった、カラム。残りはこちらで始末しておこう」
そのままカラムからノアを抱き取ると、ユリエルは何も言わずに踵を返す。
ノアが両腕をユリエルの首に絡ませて、安心したように身を任せていた。
「すべて手の内ってわけですか」
背中に投げ掛けた言葉に、ユリエルは立ち止まってカラムに向き直る。
ユリエルの胸元に顔を埋めるノアの柔らかい髪が、月に照らされて淡く輝いていた。
「見ただろ? こいつは不条理な事が起こると、自分では消化できずに不安定になる。俺がいないと、そのうち壊れるだろう」
「あなたがそうしたんじゃないんですか?」
「お前はなかなか筋がある。これ以上有能な騎士を失いたくない」
それはカラムに対する嚇しだった。
これ以上ノアに関われば、今度騎士団からいなくなるのはカラムだ。
「ユリエル……」
名を呼んで、顔を上げるノアに優しく微笑むと、ユリエルはノアの唇に口付けを落とした。
月の光につつまれて、まるで神聖な儀式のように施されるそれは、ノアにとっては禁断の果実に違いなかった。
甘い果実に身を堕とされて、気付かぬうちに奪われている。
ユリエルの赤い舌がぺろりとノアの唇を嘗めあげた。
ノアのすべてを絡め取ってしまうユリエルと、ユリエルをそんな風にさせてしまうノア。
果たしてどちらが本当の誘惑者なのか、カラムは黙って考えていた。
end.
[ 13/13 ]←
[mokuji]