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「見ろよこの肌。こんな何も知らないような顔して、ユリエル様とデキてたんだぜ。許せねえよなあ」
「それで?」
「だから、お前と一緒だよ。再教育してやろうと思ってな。ノアがよくしてやってたあのガキは都合が良かった。大事な兄さんを解放してやるって言ったら、何でも言いなりだったぜ。カラムは知ってるだろ? あの銃に弾は入ってなかった……」

最後まで言い終わらないうちに、ベネットが低く呻きそのまま崩れ落ちた。
その身体には短剣が深々と突き刺さっている。先ほど、カラムがノアに忍ばせておいたものだった。

それを見て、凶漢達がいきり立つ。彼等が飛び掛かって来る前に、カラムは素早く剣を翻して斬り付けた。
今は密偵役に徹してはいるが、カラムも腕に覚えはある。恐らく、ベネットにはそんな情報はなかったのだろう。
血を拭って剣を仕舞い、倒れているベネットを見てカラムは呟いた。

「俺をお前と一緒にするな」

それから、倒れたベネットに潰されてしまったノアの体を抱き起こす。塞がれていた口を解放し、まだ縛られたままの両足の縄を切る。

「もっと早くやっていれば、何も聞かずに済んだのに。変に甘いんだ、あんたは。……さあ、こいつらの仲間が来る前に行きましょう」

しかしノアからの返答は無い。
訝しく思って様子を窺うと、その身体が微かに震えていた。
次第に震えは大きくなり、白い頬から血の気が引いていく。

「どうかしたんですか?」

両腕で自分の腕を抱き締めて、何かを耐えている姿はひどく弱々しく、先ほどまでの強い瞳を見ていただけに、その違いに戸惑った。

「早く行かないと。ノア?」

何か薬でも盛られたのだろうか。ノアはぴくりとも動かなくなってしまった。
仕方なく、抱えて連れ出す為にカラムが体を密着させると、ノアが縋り付くように見上げてきた。
不安げに揺れているその瞳に、カラムは戸惑いを隠せない。それでも衝動的にノアを抱き寄せると、切れ切れに消えそうな声で、ノアはユリエルの名を呼び始めた。

「……俺はユリエル様じゃないですよ」

そう言ったカラムの声は、自分でも呆れるくらいに冷たい。
ノアは拒絶するように頭を振ると、何度も繰り返してユリエルの名を呼び続けた。

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