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兄貴に強い目で居抜かれて、俺の口は固まったように開くことができなかった。
そんな俺を見て、兄貴はきゅっと眉をひそめると、朝食が乗っているテーブルに視線を向ける。

「一晩ここで朔に世話をさせておいて、目の前で朔が苦しんでいても、真緒は何もしなかったの?」

反論出来なくて、俺の顔は自然と俯いていた。
絨毯に広がる朔の血が目に入る。
未だに朔の顔色は悪いし、呼吸も荒い。額に流れる脂汗を兄貴がハンカチで拭う。
俺に能力があれば、朔はこれまで苦しまずに済んだはずだ。

「真緒」

静かな声で名前を呼ばれて、顔を上げる。

「人を従わせるなら、相応の実力がないと駄目だ。守れないなら、縛りつける権利はないよ。このままじゃ、真緒は自分の我が儘で朔を引き留めてるんじゃないかって僕は考えてしまうよ。だから、真緒に朔を触らせたくない。朔を助けるのは、僕とクロフォードだ」
「……風紀委員長? 兄さん、あいつは駄目だ」
「どうして? うちの者を呼ぶと時間がかかる。真緒は朔を苦しめたいの?」
「そうじゃないけど、あいつは信用出来ない」
「僕がいるから下手な真似はさせないよ。クロフォードの実力は確かだし、僕が呼べばすぐに来てくれる。真緒よりは朔の力になってくれると思うよ」

そう言ってから、兄貴はクロフォードに連絡を取った。
兄貴が言った通り、風紀委員長はものの数分で駆けつけた。

「これは一体、どんな修羅場があったんだい?」

部屋に入って来て早々、風紀委員長が言った。さも驚いてますって感じで、胡散臭さが倍増した。
その風紀委員長は、兄貴に呼ばれて朔の様子を伺っている。

奴が高社君を手籠めにしたって聞いたから、印象はがた落ちしたままだ。朔に変なことをしないか心配で、奴から目を逸らせない。

「開東がこんな状態になるなんて、本当に何があったんだ?」

風紀委員長の質問に、俺から説明した。

「急に苦しみだしたんだ。朔の中に何かが入り込んだ気配がした。多分悪鬼だと思う。今は兄さんが抑えてくれてる」
「そうか……」

風紀委員長は、朔の体に静かに手を翳した。真剣な表情でしばらくそうやっていた後、ゆっくりと手を下ろす。

「ずいぶん厄介なものに取りつかれたな」
「厄介なもの?」
「入り込んだ悪鬼は、開東と波長が合ったんだろう。開東と同化しようとしたが、こいつが咄嗟に抵抗した反動で体内が傷付いたんだ。悪鬼をどうにかしないと、体の手当てもできない」
「そんな……! じゃあ、早く朔から悪鬼を追い出さないと」
「僕がすぐに動きを止めたから、朔に大きな損傷はないと思うけど……」

でも、朔は血まで吐いて意識を失うほど苦しんだんだ。早く朔から悪鬼を追い出したい。

半人鬼の朔の体に流れているは悪鬼の力は桁外れだと聞いている。そんな朔の力に同化しようとするなんて、相手も相当力があるのかもしれない。

「俺が開東に結界を張れれば、結斗の力で浄化できるだろう。だが、同化しようとしていたせいで、開東のなかで力が絡み合ってる。開東だけに結界を張るのは難しいだろうな。失敗すれば、開東そのものもただじゃすまないだろう」
「それじゃあどうしたらいいの? クロフォード、朔を助けるためなら、僕は何だってする」
「兄さん」

気持ちはよくわかるけど、風紀委員長相手に何だってするってのは危険すぎると思う。

兄貴からそんなことを言われた風紀委員長は、一度口を閉じた後、なぜか俺に視線を向けた。

「なに?」

兄貴に変な要求をしたら絶対に阻止しようと考えながら、風紀委員長をじろりと見返す。

「お前が俺に力を渡せば、出来なくもない」
「はっ?」
「俺に、お前を抱かせろと言ってるんだ」

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