カラムはノアの白い首筋から短剣を離した。

「今の状況がわかってますか? まったく、破かれたのが上着だけで良かったですね。まあ、これ以上はさせるつもりもないですが」

今のこの部屋には不釣り合いなベッドに、ノアは四肢を縛られて寝かされている。何が行われようとしたのかは一目瞭然だった。

「それにしても、あっさりとこんな目に合わされて、いくら何でも油断しすぎです」

カラムがため息を吐くと、そこへ幾つかの足音が近付く音がした。素早くノアから身体を離す。

「誰だ!」
「騎士団か!?」

入り口から凶漢が二人。剣を鞘から抜きながら、カラムに向かって来ようとしていた。

「待て」

その後ろから制止する声が響く。
動きを止めた凶漢の後ろから姿を見せたのは、口元に笑みを湛えたベネットだった。
凶漢がベネットの言葉に従っている。それなりに統率力を持っているようだ。

「やっぱり来たな、カラム」
「俺にわかるように証拠を残してたんでしょう」
「まぁな」

そう言ってベネットが大きく笑う。普段は明るい笑顔が、今は毒々しく見える。
密偵役の暗号を使い、ベネットはこの場所を知らせてきたのだ。それに気付いたのはカラムだけだった。

「今しがた、トラップに引っ掛かってきたよ。ここに忍び込むために、お前がやったのか。おかげでいい所を邪魔された」

ベネットはカラムへと近づくと、ノアに視線を向けた。
見ているだけで気分が悪くなりそうな程、ねっとりした視線だ。向けられたノアを気の毒に思う。

「随分な格好だろう。カラム、お前は救出に来たのか? それとも、一緒に遊ぶために来たのか?」

ベネットが愉しげにカラムに尋ねた。

「俺が誰にも言わずに一人で来ると思ってたんだ?」
「お前も俺と同じだって知ってるからな。だから、ノアがここに来るように仕向けたんだろう? 俺は指をくわえて見てるだけってのが、嫌になっちまったんだ。お前ならわかるよな、カラム」
「確かに、いちから躾け直してあげたいって思ったのは、ノアが初めてだけど。それにしても、随分回りくどいやり方だね」
「その方が、愉しいだろ? ノアが斬ったあのガキ。あいつを唆したのも俺だ。楽しいゲームだった」

そう言ってノアへにじり寄り、その身体を引き起こしたベネットは、カラムに見えるように服の前を開いて、素肌をあらわにした。

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