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俺が変態王子に憤っていると、音を立ててドアが壊された。
ドアの残骸の向こうには、本物の朔が立っている。

「朔!」
「真緒様、遅くなってしまい、申し訳ありません」

朔が、真っ直ぐに俺のところに来ると、後ろにいた朔の透明な分身は消えてしまった。

「悪鬼との同化に手間取ってしまいました」

さっきのエロい悪鬼からは、確かに朔の気配があった。だから、抵抗はあったけどそれほどでもなかった。
……なんて、本人には言えないけど。

「うん、大丈夫。来てくれて助かった。でも同化って朔は大丈夫なの?」
「俺よりも、真緒様が大変なことになっていますが」

そう言って、朔が自分の上着を掛けてくれたので、遠慮なく羽織った。
やっと上半身に服を身に付けられる。

それから、高社君に約束してもらいたいことについて、話しをした。
内容は、俺の能力について口外しないことと、今まで通りに俺と接すること。

「風紀委員長にも言ったら駄目だけど、あいつの手足になってたってことは、今回のこともあいつが関係してた?」
「違う、これは僕が勝手にやったことなの。クロフォード様が真緒君を手に入れようと動かれていたから、本当にそうなる前にどうにかしようと思って……。ごめんなさい」
「謝っただけで許されると思っているのか?」

朔がジロリと高社君を見下ろす。そんな朔の怒りに触れて、高社君はますます項垂れてしまった。

朔が怒ってくれるのは嬉しいけど、高社君には今まで通りにしてもらった方が、周りからも怪しまれないと思う。

「俺を手に入れるってのは、風紀委員長が兄さんを自分のものにするためなんだろ?」

そう聞いてみたら、高社君は首を横に振った。

「僕も最初はそう思ってたんだけど、それだけじゃないような気がして……。だから凄く焦っちゃったのかも」

兄貴じゃないとしたら、俺にこだわる理由って、浄化の能力くらいだよな。もしかして、奴にバレちゃってるのかも。

風紀委員長にも、俺の力を欲しがる理由があるんだ。さっき俺を襲ってきた感じからすると、そんな気がする。

「なら、なおさら風紀委員長には俺のことは耳に入れない方がいいだろうな。高社君は、あいつに嘘をつくことになるだろうから、それで苦しい思いをするかもしれない。あと、風紀委員長から体を使って力をもらうのも禁止にする。あいつ、他人を操る能力を持ってるみたいだから、気を付けないと本当に傀儡にされるよ、高社君」

そう言うと、高社君は唇を噛み締めた。きっと、高社君も気付いていたのかもしれない。

「俺はそれで今回のことはチャラにしていい」
「真緒様……」

朔が眉を寄せながら俺を見るけど、高社君に出した条件って、それなりに厳しいんじゃないかと思ってる。
好きな人に触ってもらえなくなるんだし、退魔の力だって簡単に手に入れられなくなったんだ。それって、能力主義のここじゃ結構大変だと思う。
力がないことを誤魔化して、他人から補給するのだって限度があるんだし、これを切っ掛けに、高社君の実家にも正直に話した方がいいのかもしれない。

「だいぶ力を浄化させちゃったから、とりあえず、みんなが動けるくらいの力は返さないと」
「それなら俺が」

朔はそう言うと、転がっていた高社君と呪術師たちに向かって式札を投げた。
式札は、さっき俺が浄化させた悪鬼の小型版になると、呪術師たちにへばりつく。

「おとなしく受け入れろ、見苦しい」

悲鳴をあげる呪術師たちに向かって、朔は冷ややかに言い放った。
物凄いドSっぷりだ。

高社君は悲鳴を堪えているからか、余計に悲壮感が漂っている。魔王朔に虐められる、いたいけな美少年みたいだった。
そんな高社君を気にしていると、朔が俺を抱き上げてしまう。

「朔、」
「同じような経験をすれば、二度と過ちは繰り返さないでしょう。それは彼らに力を与えてしまえば、勝手に消滅するので安心してください。真緒様、行きますよ」

そう言って、朔はさっさと歩きだした。

「僕たちは大丈夫だから。力を戻してくれてありがとう」

高社君の台詞を背後で聞きながら、朔に抱えられた俺は部屋から連れ出された。

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