23:王子様と甘い果実

 リュシアンは、無言で馬を走らせていた。力の入らない涼太の体を、リュシアンの片腕がしっかりと抱き込んでいる。

 あの場にバルトルがいたから、マルテも無事だったはずだ。問題は、態度を一変させたセルジュだ。彼がどうなったのか聞きたかったが、リュシアンに声を掛けられずにいる。

 視線を少し上げてみる。下からのアングルも申し分なく格好いい。
 手足を拘束されたままで、前を見据えるリュシアンに抱えられていると、本当にリュシアンに攫われているような気がする。
 そう考えたら、ドキドキして、何だか落ち着かない気分になってきた。

(あれ、俺ってMの素質があったりする……?)

 それは相手がリュシアンだからに他ならないのだが、それにしたって何だかおかしい。体が火照って熱くなってきた。

 涼太が、体のおかしな不調を疑問に思っているうちに、馬が歩みを止めた。
 建物のシルエットが見える。ゲームで出てきた離宮とは、何だか雰囲気が違っていた。別の離宮なのかもしれない。

 涼太を抱えながら、リュシアンが離宮の中に入る。細く見えても王子様なだけあって、涼太を抱きかかえて歩くのも安定している。
 女の子のように運ばれているのに、全く嫌ではない。むしろ、ドキドキが増していた。
 離宮には使用人たちがいたが、彼らについては敢えて考えないようにした。

 連れられたのは、大きな部屋だった。内装を確認する余裕もないまま、リュシアンが涼太を寝台に下ろす。

 灯りはともされていない。窓からは、この世界特有の青白い月明かりが入り、部屋の中を照らしていた。

 月の光を浴びて、銀色の髪がキラキラと輝くのが好きだ。だが、リュシアンの目の奥は、澱のように昏いものが沈んでいるように感じた。

 まだ、怒っているのかもしれない。不安に思いながらリュシアンを見ていると、冷たい指が涼太の頬を撫でる。
 リュシアンの指が触れた途端、背中を駆け抜けたものが、涼太の口から吐息をもらさせた。自分の反応に驚いた涼太は、咄嗟に口を閉じる。

「ずいぶん熱い。発熱してしまったようですね。今、ヴィオの実を用意させています」

 頬に触れていた指が離れて、ホッとしたのもつかの間、今度は涼太を包んでいたシーツに伸びてくる。

「拘束を解きます」
「……待って」

 思わずリュシアンの手を拒んでしまった。今、リュシアンに触られたら、大変な事になってしまいそうな気がするのだ。

「……申し訳ありません。他の者にさせる訳にはいかないので、少し耐えてください」

 視線を下げるリュシアンに、誤解をさせてしまったと、涼太は慌てた。

「ち、違います、何だかおかしくて。体が……」

 リュシアンは眉を寄せると、何を思ったのか、涼太を包んでいたシーツを乱暴とも言える手つきで剥ぎ取ってしまった。

「リュシアン!? やぁっ……!」

 肩を掴まれただけで、変な声が出てしまった。
 やっぱり、体がどこかおかしい。

「何を、されたんですか?」

 リュシアンの剣呑な雰囲気に、涼太は息をのむ。

「あの小屋で、何をされましたか?」
「……あ、媚薬を飲まされて……、それで触られただけ」
「あなたには害のある薬は効かない筈だ。一体どれだけ飲まされましたか? それとも、おかしくなるほど触られましたか?」
「い、いいえ。クラウスは操られてて、すぐに正気に戻ったから、そんなに触られてません」
「あの騎士ですね」
「あっ、クラウスは本当に操られていただけだから。体がおかしくなったのも、ついさっきだし、媚薬のせいじゃないかも……」
「あなたはっ、こんな目にあっていて、どうしてそんなふうに相手を庇うんですか!?」

 リュシアンの剣幕に、涼太は何も言えなくなった。
 あんなに優しいリュシアンを本気で怒らせてしまった。

「そうやって、あなたは、あなたを殺した者さえも許してしまうんだ」

 断言するような言い方だった。

「いくら追い払っても、次から次に……!」

 リュシアンが、肩で大きく息をつく。
 溢れる感情を抑え込んだ、苦し気な表情が、涼太の心も苦しくさせる。

「みんながあなたを欲しがる。でも、失う訳にはいかないんだ」

 俯いたリュシアンの、握られた拳が震えている。
 リュシアンが何かを抱えていて、今はそれに苦しめられている。それは、涼太に関係するもの。
 でも、それが何なのかは涼太には分からない。リュシアンを一人で苦しませているだけだ。

「……ごめんなさい。でも、俺はリュシアンから離れたくないって思ってる。リュシアンが何かに苦しんでいるなら、それを助けたい」

 涼太の話を聞いたリュシアンが顔を上げる。青い瞳に射抜かれて、涼太は体を震わせる。

「本当ですか?」

 涼太が頷く。すると、リュシアンの手の甲が、頬に触れてくる。

「……ッあ、リュシアン」
「苦しいですか?」
「……」

 再び頷くと、頬に触れていた手がするりと動いた。

「んっ」
「それは、飲まされた媚薬のせいでしょう」

 リュシアンの目は、もう落ち着きを取り戻している。けれどそれはただ、身の内の奥に秘めただけに違いない。
 何かを内包する青い目に見つめられていると、先ほどよりもずっと体が熱くなってくる。

「薬の効果が抜けるまで時間がかかるかもしれません。それまで、少しでも体が楽になるように、私が触れてもかまいませんか?」
「リュシアンが?」
「そうです。私はあなたの願いは叶えなければならない。あなたが拒めば、触れる事はできません」

 涼太は力なく首を振った。体が熱くて、思考もぼんやりしているが、どんな時だってリュシアンを拒むはずがない。

「薬で昂った体を癒すだけです。触れるだけ、それ以上は何もいたしません」

 涼太の側に、リュシアンが顔を寄せる。怖がらないで、と囁かれた言葉に、涼太は頷いた。




「はぁ、はぁ、あっリュシアン……」

 熱を持った体に、リュシアンの冷たい手は心地良かった。リュシアンが触れる場所は、全部気持ちがいい。

 拘束を解かれて、手足が自由になっていても、体を巡る熱で儘ならない。
 そんな涼太の上半身を、リュシアンの手が、なぞるように慎重に触れていた。
 本当に怖がっているのは、リュシアンのような気がする。

 リュシアンの手が、下へと滑った。そこで初めて、自分の体が反応している事に気がついた。

「ぁっ、や……」

 咄嗟に拒む言葉が口をついたが、そしたらリュシアンに触ってもらえなくなる事を思い出した。
 引かれそうになった指を掴むと、リュシアンはびくりと震えた。

「リュシアンの手、きもち、いいから」

 何故か、一瞬だけ苦しそうな表情をしたリュシアンの事が気になって、涼太は握っていた指を掴み直す。

「あなたは、薬で昂っているだけです。気持ちを楽にして、私に身を任せてください」

 リュシアンが、こくりと頷いた涼太の、残っていた服を脱がせる。
 恥ずかしさと、リュシアンに触られるという事実に、涼太の目には涙が滲んできた。

 大きな手が、涼太の張り詰めた性器を握る。

「あぁっ! ッんんっ……!」

 その瞬間に、ビリビリと快感が走り抜けた。
 握られただけで、呆気なく果ててしまった。涼太は恥ずかしさのあまり、涙を溢れさせる。

「嫌でしたか?」
「いや、じゃない……。恥ずかしくて」
「薬のせいです。精霊様はとても可愛いですよ」

 濡れた性器を再び擦られて、羞恥と快感で堪らずポロポロと涙を零しながら、涼太は強く目を閉じた。

「あぁっ……、ぅんんっ、ふぅっ、んッ、んんっ」
「声を我慢しないでください」
「っでも……」
「我慢してしまえば、それだけ長引いてしまいますよ」

 そんな言葉に涼太は一瞬迷うものの、直ぐに襲ってきた快感に流される。リュシアンに言われるまま、声を上げた。

「あっ…あぁっんっ、ふっ、ぁ…ッはぁ、んっぁッ……リ、リュシアン……」
「大丈夫、そのまま」
「あぁっ、んぁっ、あッ、ふぁっあっ、あぁッ……!」





「ヴィオの果汁です。飲めますか」

 気を失っていたのか、リュシアンに声をかけられて、涼太はうっすらと目を開ける。
 疲労で指も動かせないでいると、リュシアンが涼太の上半身を抱えた。

 果汁を含んだリュシアンの唇が、涼太の唇と重なる。口の中に流れてくる甘い液体に、涼太は小さく体を震わせた。
 そのまま、瞼が落ちていく。

「私は何も知らないあなたにつけ込んでいる」

 それは違うと言いたかったが、涼太は首を振るだけで精一杯で、直ぐに眠りの世界に引き込まれてしまった。

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