20:標的

「お逃げください精霊様。申し訳ありません、不覚を取りました」

 セルジュと睨みあったまま、バルトルがそう言った。
 どこか苦しいのか、バルトルの眉間にはきつく皺が寄り、次第に呼吸も荒くなり始めた。

「早く……」
「リョータ様!」

 何が何だかわからないまま、マルテに手を引かれるが、あんな状態のバルトルが心配だった。今、彼の中で何が起こっているのだろう。

「行かせるはずがないでしょう」

 セルジュの笑い声が聞こえた直後、開いた扉から一人の騎士が入ってきた。
 騎士は、黒い靄に取り憑かれている。プレートアーマーを身に付けているため、顔を見る事は出来ない。

「あの人に、黒い靄が憑いてる」

 騎士を見て安堵していたマルテにそう告げると、直ぐ様表情を強ばらせた。

「セルジュさん、これは一体どういう事ですか?」

 マルテが問いかければ、セルジュは婉然と微笑み、焦げ茶の目を涼太に向けた。

「セリア様がバルトルをご所望です。そちらの騎士は、精霊様に用があるみたいですけど」

 近付いてくる騎士から逃れるため、涼太たちがジリジリと後退していると、黒い紐が騎士に巻き付いた。 バルトルが放った紐が騎士の動きを止めたが、バルトルの方は一層苦しそうで、肩で大きく呼吸をしている。

「バルトル……!」
「精霊の力を使われる前に早く!」

 セルジュがバルトルに飛びかかった。同時に、黒い紐を断ち斬った騎士が、マルテを払い除けて、涼太を抱くようにきつく拘束する。

 硬い甲冑のしっかりした体に抱き竦められ、涼太に恐怖が込み上げる。しかし、声を上げる間もなく、騎士の片手が涼太の首にかかり、そっと喉元を押さえられた。脳貧血を起こしたように、次第に目の前が暗くなっていく。

 意識を失う直前、視界の端に、倒れたバルトルに跨がったセルジュが妖艶に笑っている姿と、彼の周りに黒い靄が沸き上がっていくのが目に入った。




◇◇◇




 涼太の部屋を飛び出したセリアは、そのままリュシアンの執務室へ向かっていた。

 いくら精霊といえども、涼太の行いは我慢できない。バルトルは、リュシアンやセリアの側に居てこそ、その力を発揮できるはずなのだ。それに、涼太が神殿を出て、リュシアンの側にいる事も納得できなかった。

 リュシアンは、どうしてそこまで涼太を大切にしているのか、直接本人の口から聞いてみたかった。癒しの力も、皆からの支持も、セリアの方が勝っているというのに。

「なぜ、一人でいるんだ?」 
「……誰?」

 声をかけられて振り向けば、赤い髪の長身の男が立っていた。セリアに向かって微笑を湛えながら近付いてくる。

「あなたは、オブーストのヴィレム様」
「供の者はどうした? こんなに美しい人を一人にさせるなど、随分とこの国は無粋なんだな。それに……、」

 ヴィレムの人差し指が、セリアの頬をゆっくりとなぞる。淫靡さが漂う仕草に、セリアは小さく体を震わせた。

「綺麗な目が赤くなっている。一人で泣いていたな?」

 ヴィレムが、セリアの小さな顎を持ち上げると、キスをするように間近に迫った。恥ずかしそうに視線を下げるセリアに、ヴィレムが囁く。

「俺でよければ、話を聞いてあげよう」
「ですが……」
「セリアの力になりたいと思ってるんだ。場合によっては、リュシアンに口添えしてもいい」

 ヴィレムを見上げてくる藍色の目に、殊更優しく微笑んでみせた。

「誰にも聞かれたくないなら、二人きりなれる場合へ行こう」





「……っあ、ヴィレムさまぁ」

 長椅子に腰掛けた膝の上で、セリアを横抱きにしたヴィレムは、片腕でセリアを抱えながら、もう片方の手は悪戯に白い肌の上をまさぐっていた。

「はぁんっ、これじゃあ、お話が出来ません」
「余りにもセリアの肌が気持ちが良くて、止まらない」
「んっ……、いやです、ヴィレム様」
「それは口だけだな? ここは尖りきって、触って欲しいと誘っているようだが」
「違います、あっ、んんっ!」

 胸の突起を摘ままれて、セリアは身をよじらせる。
 目許と、晒された乳首を赤くさせながら、セリアの体は拒むどころか悦んでいた。

「慣れているようだな。今まで誰がこの体に触れた? ここも、ここも、ここにも」
「あぁっ!」

 嫉妬を見せたヴィレムの手が、セリアの性器を強く握る。快感に潤んでいた目に、恐怖の色が混ざった。

「違うんです。皆、僕が大切で、僕も皆が大切だから、仲良くしたかったんです」
「なら、俺とも仲良くしてくれるか? ん?」
「ああっ、す、する。……したいです。ヴィレム様は、僕が好きなんですか?」
「だから、こうして慰めているんだろう?」
「嬉しい。僕も好き……」

 セリアは、自分からヴィレムに抱き付き、その唇に口付けた。
 ヴィレムがセリアの服を捲り上げ、直接性器に触れてくる。やわやわと弄られて、セリアの口から甘い声が上がった。

「んぁっ、あっ、あふぅっ」
「気持ちがいいか?」
「いい、気持ちいいッ……」
「なら、もっと善くしてやろう」

 ヴィレムはセリアを長椅子に寝かせると、その上に覆い被さる。セリアの目は、快感と期待に潤んでいた。
 性器を掴み、舌で見せつけるようにペロリとひと舐めた後、徐にそれを口に含んだ。

「あぁん!! ヴィレムさまぁっ」

 快感に蕩けていたセリアの根本を強く握りながら口淫を施せば、ビクビクと体を震わて悶え始める。
 ヴィレムの手を離そうと弱々しく藻掻いて、逆に強く啜られてしまい、セリアは長い髪を振り乱した。

「ひぃぃっ、だめぇッ、握らないで、手、いやぁっ」

 嬌声を聞きながら暫く口淫を続けていたが、セリアの悲鳴が大きくなった所で、ヴィレムは口を離した。

 根本を握られたまま、半端に放り出されたセリアは、長椅子の上で体をくねらせる。

「ふあぁっ、はぁっ、んん」
「セリアを泣かせていたのは誰だ?」
「ぁ、……せいれい、さま。僕をいじめるの」
「なら、仕返ししないとならないな」
「んっ、ヴィレムさまも? みんなが、僕を助けてくれるの、あぁっ、んぁあっ」

 性器の先を弄られて、セリアは体を仰け反らせた。その様子を見ながら、ヴィレムは目を細める。

「それは、どうやって?」
「……わからないです。みんなが、してくれるから」
「ほら、ちゃんと話さないと、いつまでもこのままじゃ嫌だろう」
「いやぁ……っ」

 張り詰めていた先端を指で押し潰すようにされ、セリアの目から涙が流れる。

「ク、クラウスが、せいれいさまと二人ではなすって……!」
「場所はどこだ?」
「あッぁっ、ゆるしてぇっ。僕は、わるくないからっ」
「セリア、言わないと辛いのはお前だ」
「ひぃぃっ! ニュ、ニュイのもり……ッ。んあぁぁ───っ!!」




 意識を失った体から離れると、ヴィレムは口許を拭い身なりを整えた。

「オブーストに連れて帰ろうと思っていたが、セリアは人気者だから諦めよう。それに、我が国に虚像はいらない。──おい、出て来い」

 ヴィレムに呼ばれ、一人の男が静かに姿を現す。バルトルを思わせるような、全身が黒の出で立ちだ。
 その男は、乱れた姿のまま意識を失っているセリアと、己の主の口許を見て顔をしかめた。

「また飲んだんですか」
「舐めただけだ。それで充分力は読める。俺は本物を探しに行く。お前はセリアをリュシアンに届けるついでに、あいつらの足留めをしておけ」


 ──あの時、微かに聞こえてきた声だった。
 ヴィレムにしか聞こえなかった声。自分の名前を呼ばれて、何かが心に真っ直ぐに響いて来るような気がした。
 もっと近くでその声を聞けば、素晴らしいものを得られるだろう。

 ヴィレムは、自分の姿を映した黒い瞳を思い出しながら、密がしたたるような甘い笑みを浮かべた。

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