14:過去と今

「お母さんを泣かせたくなかったら、言う事を聞きなさい」

 標準よりも大きな体躯の男は、小学生の子どもから見れば、大男のように感じる。
 そんな男に突然のしかかられた涼太は、驚きに目を見張ったまま、脅迫の言葉を聞かされた。

 男は母親の恋人だった。涼太たちに衣食住を提供するだけでなく、日頃から母親に宝石や高級ブランドを買い与えては喜ばせている、かなりの資産家だった。

 今日は母親が外出しており、涼太が一人で留守番をしていた所に、突然男が訪ねて来たのだ。
 男と対面するのは、随分久しぶりだったような気がする。

「住む所もなくなって、ご飯も食べられなくなると困るだろう。だから、黙って言う事を聞きなさい」

 再び涼太を黙らせる言葉を告げると、男は涼太のシャツを捲り上げ、ズボンを脱がせ始めた。
 何故、男がこんな行為をするのか分からない。抵抗したいが、母親が困ると思い、戸惑いながらされるがままになっていた。

 すっかり露になった涼太の体を見て、男が笑う。

「久しぶりに会ったのに、涼太君は成長していないなぁ。あの女がなかなか会わせてくれないから焦ったけど、安心したよ」

 淡い色の小さな乳首を摘ままれて、涼太は驚きと恐ろしさで体を震わせた。
 ここで、ようやく男の意図が分かった。だが、自分も同じ男だ。男の考えと、これからどうなるのかが分からない恐怖が襲う。

「僕は、おっぱいはないし、女でもないよ」
「あるじゃないか、可愛いおっぱいが。おじさんがいっぱい弄ってあげる。それに、涼太君はどんな女の子よりも魅力的だよ」

 男の太い指が、涼太の乳首をくにくにと揉みしだく。涼太が痛みに顔をしかめても止まる事はなく、さらに力を込められた。

「いっ、痛い! やめて……!」
「駄目だ。お母さんを困らせたくないだろう。涼太君がいい子にしていれば、すぐに気持ち良くなれるんだから。わかったね?」

 目に涙を溜めながら涼太が頷くと、男は興奮したように呼吸を荒くした。
 男の手が涼太の体を這い回る。その生暖かい手の気持ち悪さに、涼太は強く目を閉じた。

「駄目だ。目を開けて、ちゃんとおじさんを見ていなさい」

 男を見るのが怖くて、なかなか目が開けられずにいると、突然、平手が涼太の頬を張った。

「目を開けろと言ってるんだ!」

 頬を叩かれた痛みと、激昂された恐怖で、涼太はボロボロと涙を流しながら目を開ける。嗜虐に満ちた恐ろしい視線が、涼太を見下ろしていた。

 震えて泣きじゃくる涼太に満足すると、男は再び体を弄り始める。
 弄られて赤くなった乳首を舐め、幼い性器にも手が延びた。

「い、いやぁ……」
「涼太君がいけないんだ。そんな顔をしておじさんを誘うから。いいかい、この事はおじさんと涼太君の二人だけの秘密だからね。お母さんに知られたら、涼太君は悪い子だって嫌われて、追い出されてしまうよ」

 男の言葉と行為が怖くて堪らなかった。恐怖の中で判断力は無くなり、涼太は男の言葉を信じてしまう。

 涼太が次々に涙を流しながらも、必死に男を見ていると、男の呼吸は益々荒くなっていき、涼太の尻を掴んでくる。それから、ごつごつした指で小さな穴を撫で回し始めた。

「小さいなぁ。ここに、おじさんのを入れたら、壊れるかもしれないなぁ」

 男の指に力が入り、涼太の小さな穴に入り込もうとした時、ドアが開く音と同時に母親の悲鳴が聞こえてきた。

 母親に見つかってしまった。驚愕して悲鳴を上げる母親を見て、絶望が涼太を襲う。

「ち、違うんだ、涼太が、こいつが俺を誘ったんだ!」

 喚く男を、母親と一緒に部屋に入ってきた男が殴り倒した。倒された男は血を流している。

「いやー! いやいや!!」

 悪い子だった自分も殴られる。恐慌状態に陥った涼太はパニックを起こしかけていた。



「いやだ、怖い……!」
「しっかりしろっ、それは悪い夢だ、涼太!」

 体を揺すられ、目を開けると、心配そうに見下ろしている義兄がいた。

「……あ、俺」

 嫌な夢を見た。涼太は、体をぶるりと震わせる。

「いいか、触るぞ」

 ゆっくりと近づいてきた長い指が、涼太の目元を拭い、労るように肩を撫でる。そんな義兄の優しい仕草に驚きながらも、黙ってされるがままになっていると、次第に涼太自身も落ち着いてきた。

 あの時の記憶は無くなってはいないが、カウンセリングなどのおかげで涼太の中で過去のものとなっていた。
 男を殴り、錯乱していた母親を正気にさせ、涼太を抱きしめるように言ったのは、今の義父となった人だ。

 義父は全部知っている。新しい家族が涼太に対してよそよそしいのは、男に悪戯された涼太が、この家に相応しくないと思われていて、さらには、あの男のように、涼太に誑かされると心配しているのではないかと考えてしまうのだ。

 だから余計、新しい家族が涼太に触れてくると、戸惑わずにいられない。
 中年の大柄な男は苦手になってしまったが、同年代に対してはそうではない。普段は意地悪で素っ気ないくせに、急に優しくされたりすると、たった今落ち着いたばかりなのに、何だか緊張して心臓もおかしな高鳴りをさせ始める。

「こんな所でうたた寝などするから夢見が悪いんだ。日頃からこれで、寮生活などやって行けるのか? 春休みの間に、しっかりと生活習慣を見直せ。いいか、くれぐれも学校で俺に恥をかかせるなよ」

(俺のときめきを返せ)

 あっさりと普段通りの冷たい視線に戻った上に、小言まで言ってくる義兄に、涼太はこっそりと顔をしかめた。




◇◇◇




 なんだか、変な夢を見た気がする。
 涼太が目を開けると、そこには眩しい美貌があって、何度も目を瞬かせた。

「お目覚めになりましたか?」

 リュシアンの優しい微笑みに見惚れながら頷く。
 それから、見慣れない雰囲気に気付き、辺りを見回した。豪奢な寝台や、煌びやかな装飾に目を見張る。涼太の全く知らない部屋にいた。

「ここは……?」
「ここは、居城の中です」

 道理で豪華な感じがしたはずだ。でも、なぜそんな場所に。
 不思議に思ってから、最後に見た、元いた部屋の惨状を思い出した。
 みる間に青ざめていく涼太に、リュシアンが宥めるように声を掛けてくる。

「大丈夫ですよ。盗賊は捕らえましたし、マルテも無事です。彼も間もなくこちらに来るはずです」
「はい……。あ、助けて下さってありがとうございました」
「いいえ。私が遅くなったばかりに、精霊様には恐ろしい思いをさせてしまいました」

 涼太は首を振った。リュシアンが来てくれたから、マルテも自分も生きていられた。もしかしたら、あのままマルテも巻き込んで、凌辱死亡ENDだってあり得たのだ。
 身震いした後、盗賊たちに嘘を吹き込んだ人物の事を考えて、怒りが込み上げる。
 奴らを捕らえたリュシアンなら、事情聴取で何か聞いているかもしれない。そう思って尋ねてみると、彼はあっさり頷いた。

「精霊様、その話をする前に、少し気分転換をいたしませんか?」

 そう提案するリュシアンに、涼太は首を傾げた。

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