6カラムが聞き込みの為に街を訪れると、そこにはすでにノアの姿があった。
今は城内を巡回しているはずのノアは、広場にいた子ども達に何か話を聞くわけでもなく、少し離れたところから遊んでいる様子を見ている。
「ノア」
「あ、カラム?」
「勝手に調べてるんですか? ユリエル様に見つかったら叱られますよ」
カラムがたしなめたが、ノアはそれを気にする様子もなく、それ以前に話を聞いていたのかもわからないくらい飄々としていた。
「なぁ、何かわかったのか?」
「生憎、あなたに教える事は何もありませんよ」
「相変わらず、逃げるのがうまいね。ユリエルには報告するんだろ?」
「ノアの事は告げ口しませんよ」
ノアはそれには応えず、再び子ども達へと視線を向けた。
最初から、カラムから話を聞くつもりはなかったのだろう。
ノアにとってカラムの存在は、心に留めておく程のものではないのだ。カラムが何をしようと関係ない。
それはカラムだけではなく、他の人間に対しても同じだった。
ノアはそれから暫くして広場を後にしたが、そのまま仕事を続けたカラムは、日暮れ前には寄宿舎へと戻った。
カラムが夕食を済ませ、自室へと戻る途中でノアに呼び止めらた。仕方なくノアを部屋へ招く。
「何ですか?」
風呂上がりのノアは、上気した肌が先日の淫らな姿を思い起こさせる。
いつも一番風呂か、最後に湯を使うのは、誰もいない時間帯を狙ってのことだ。
身体中に残された疾しい痕跡は、とても他の騎士たちには見せられないだろう。
「まだ髪が濡れてるじゃないですか。風邪を引きますよ」
「そなもん、すぐに乾くだろ」
「ダメですよ」
ノアが肩に掛けていた布を取って髪に充てる。
大人しく目を閉じて、されるがままのノアは無防備だった。
「なあ、どうして昼間の事告げ口しなかった?」
目を開いたノアの、真っ直ぐにカラムを見る碧眼にはカラム自身が映っている。それをカラムはじっと見返した。
「言ったでしょ、告げ口しないって。それに、ユリエル様からもノアについての報告をしろとは言われてないですし」
そう言うと、ノアは少し目を見張り、それから顔を綻ばせた。
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