29「俺が言う条件をのんだら、助けてあげるよ」
我ながら悪趣味なセリフだと思うけど、高社君は一も二もなく頷いた。
「僕が条件をきくから、みんなを助けて!」
どんな条件かもわからないのに、けど、物凄い必死だってのは伝わってくる。
兄貴に対しての時もそうだったけど、高社君は守りたいもののためなら、それこそなりふりかまわず、手段を選ばないってタイプなんだろう。
俺の後ろで光っていた悪鬼が消える。
それと同時に、高社君達に結界が張られた。
ちなみに、結界を張ったのは俺じゃない。
結界に守られた高社君が、驚いて目を見張る。高社君が見つめる先、消えた悪鬼がいたはずの場所に、朔が立っているからだ。
半分すけすけの透明感がある朔が、振り返った俺と目が合うと微笑んだ。
朔は実体ではない。本人は、多分この部屋の近くにいるはず。
「開東様……!?」
高社が入口の方を振り返ったけど、鍵がかかったままのドアは一ミリも動いていない。
「どやって? それに、今さっき悪鬼がいた場所……まさか……」
「うん。朔は普通の人間じゃないから」
「半人鬼……」
「そうだったら、嫌悪する? それとも軽蔑する?」
青ざめていた高社君は、はっとしてから、あわてて首を左右に振った。
「良かった。朔は力は半端なく強いけど、悪鬼とは違う」
「開東様は、素晴らしい方です」
すけすけな朔を見る、敬意のこもった眼差しに少しほっとした。
悪鬼の力を持つ半人鬼に対して、憎悪や侮蔑の感情を持つ人たちも多い。
朔は簡単には負けないだろうけど、高社君とはこれからも関わっていきたいから、好意的な感情を持ってもらっていたほうが助かる。
「俺たちは、あんたたちを“覚えた”。もし、これから言う条件を一方的に破棄、または守れなかった場合、あんたたちが持つ呪術師としての力は、残らず浄化される。……あ、ちょっとその前に」
俺としては、物凄く気になっていたことを高社君に聞いてみた。
高社君の、本命って誰……。
それを尋ねてみたら、高社君は唇を噛んでしばらく黙り込んだ。
「兄さんじゃないの?」
「会長様のことは、本当に心から憧れてる。強くて綺麗で……、僕もあんなふうになりたいってずっとずっと思ってた。自分でもおかしいって思うけど、会長様が自分だったらって考えるくらいにのめり込んでた」
うん、確かにのめり込みすぎてるような気がしてた。
「……でも、本当は僕には……。真緒君を散々バカにしてたけど、僕の方こそ呪術師の力なんて持ってなかったんだ!」
「えっ、えー? でも、普通に使ってたよね?」
「そうだけど、ダメダメなのは、本当は僕だったんだよ。だから、クロフォード様に力を分けてもらってたの。あの方の手足になる代わりに……」
ぐったりしていた呪術師たちが、驚いたように高社君の名前を呼んだ。
「……ごめんなさい、みんな、今まで黙っていて。だんだん僕の力が弱くなって行くのが怖くて、誰にも言えなかった。あの方以外には……。クロフォード様には、僕からお願いしたことだから、あの方は悪くないの」
弱みに付け込んで、高社君をいいようにしたんだったら許さん、変態王子。
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